恋を知らない侯爵令嬢は裏切りの婚約者と婚約解消し、辺境地セカンドライフで溺愛される
 見上げると、泣き出しそうな顔がそこにあり、形のいい眉が酷く歪んでいる。

「どうして、あのような輩にまで優しさを向けるのですか?」
「……待って、なにをいっているの? 優しさって」
「あの男が、貴女を諦めるとは思えないのです」

 私の言葉を遮ったアルフレッドの声が、わずかに低くなる。怒りすら感じるその声音に、不安が押し寄せた。
 初めて見る顔だった。怒り、悲しみ、不安──負の感情がない交ぜとなって滲み出ている。

「優しいとかじゃなくてね……今さら会ってもどうにもならないって、ちょっと考えれば、フェリクスだってわかると思うの」

 どう伝えればいいのか。アルフレッドがなにに怒りを覚えているのかわからず、言葉を探りながら、様子を窺った。まるで、見えない敵に怯えているようにも見える。

「それに魔法や剣術も、アルフレッドの方が上だし、ここには騎士団や魔術師団も常駐しているわ。フェリクス一人でどうするっていうの? それがわからないような人じゃ」
「あの男を理解などするな!」

 再びの怒鳴り声が響いた後、エメラルドの瞳が輝いた。その頬を、熱い滴りが落ちていく。
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