恋を知らない侯爵令嬢は裏切りの婚約者と婚約解消し、辺境地セカンドライフで溺愛される
 声をかけてみても、返事はなかった。
 ただ暗い瞳をこちらに向け、膝に項垂れる女性の髪を撫でる。あの日、図書館でダイアナを撫でたように優しい手つきで、ゆっくりと。

 ぞわぞわと背筋が震えた。暑いわけでもないのに汗が背筋を伝い落ち、震える指でアルフレッドの袖を掴んだ。

「ご両親、オーランド伯爵様は貴方がここにいることを知っているの?」

 フェリクスの指が引くりと動き、覇気のない声が「待っていたんだ」といった。

「待っていたって……」
「ダイアナを認めてもらおうと、必死に頑張ったんだ。魔術師として名を馳せれば認めてもらえるだろうと、来る日も来る日も働いた」

 口角を引きつらせながら身の上話を語るフェリクスは、女性の髪を撫でていた手を止めた。おもむろに彼女を絶たせ、自身の膝に座らせる。

「……働いても金は端から消える。父の許しを待ち、頑張っていたのに……ダイアナが消えた。私を残して、ダイアナが消えたんだ!」

 金切り声を上げて、フェリクスは女性の胸に顔を埋めた。

「どうしてなんだ。どうして私ばかりがこんな苦しまなければならない!」
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