恋を知らない侯爵令嬢は裏切りの婚約者と婚約解消し、辺境地セカンドライフで溺愛される
「……精神を」

 フェリクスの精神は今、魔核が見せる幻影によって維持されているようにも見える。もしも、この幻影が亡くなったらどうなるだろう。
 想像するだけで、胃が潰されるような思いだった。

 胸の前で手を握りしめて、学園で習ったことを思い出す。癒し手は国のため、分け隔てなく力を使うことが望ましい。自身のためではなく、万人のために。
 このままでは、塔の魔核に釣られて魔物がますます集まる。それを止めなくてはいけない。

 だけど、魔核からフェリクスを引き離したら──暗い瞳が閉ざされるのを想像し、息がつまった。

「貴女が背負う必要はない」

 私の葛藤を読んだのだろうか。
 アルフレッドは、私の手を放すと腰に下げていた剣を引き抜いた。
 銀の髪が揺れ、全身から青い陽炎が立ち上がる。その剣先が輝きを放った瞬間、その足が床を蹴った。

「待って、アルフレッド!」

 制止の声は届かず、その切っ先が幻影に振り下ろされる。その瞬間、フェリクスと幻影の周囲から風と共に黒い影が天上に向けて突き上がった。
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