妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「ジュスティーナ嬢! コルラード様、何をなさるんですか! 馬鹿な真似はやめてください!!」

 ラウロ様がすぐさま兵士たちを引き離そうとしてくれるが、大勢の兵士たちによって押しのけられてしまった。

 ラウロ様に向かって伸ばそうとした手は、兵士に容赦なく振り払われる。


「ラウロ様……っ! コルラード殿下! 私、王宮になんて行きたくないです!!」

「ああ、ごめんね。ジュスティーナ嬢。手荒な真似をして申し訳ないけれど、埒が明かなそうだったからさ」

 殿下は少し離れたところでこちらを眺めながら、作り物めいた笑みを浮かべていた。兵士たちはその間にも容赦なく私の腕を捻り上げるので、痛みと恐怖で体が竦んだ。

「コルラード様! ジュスティーナ嬢を解放してください! 俺は決してあなたを邪魔するつもりなどありませんから……!」

 ラウロ様がコルラード殿下に、懇願するようにそう言ってくれる。

 しかしコルラード殿下はそんなラウロ様を冷たい目で見ると、つかつか近づいていって乱暴に彼の胸ぐらを掴んだ。

 そして殿下は懐から金色に光る短剣を取り出すと、ラウロ様の首に押し当てる。

 体からさっと血の気が引いた。


「お前がいくら邪魔をする気がないと言ったって、存在自体が目障りなんだよ。お前はずっと日陰にいればいい。表舞台に立とうなんて考えるな」

「ええ、表舞台に立つつもりなどありません。ですからジュスティーナ嬢を解放してください」

「そんなにあの女が必要なのか? あの女を使って呪いを解いたところでお前が王宮に戻れることはないぞ。お前はとっくに王子の身分を失っているのだからな!」

 コルラード様が叫ぶようにそう言った。瞬間、私の思考は停止する。

 今、なんと言っただろうか。王子? ラウロ様が?

 呆然とラウロ様を見ると、ラウロ様のほうも顔を青くしてこちらを見ていた。聞いてはいけないことだったのだろうか。

 しかし、すぐに考え事をしている場合ではなかったと思い出す。コルラード殿下はラウロ様の首に金色の短剣を押し当てたままだ。


「なぁ、ラウロ。大人しくジュスティーナ嬢を引き渡してくれよ。彼女の能力で万が一にでも呪いが解けるようなことがあれば面倒なんだ」

「……コルラード様にはジュスティーナ嬢を預けられません」

 コルラード殿下はラウロ様の答えに舌打ちすると、短剣をさらに強く押し当てる。ラウロ様の首から、わずかに赤い血が滲むのが見えた。


「殿下!! やめてください!!」

 コルラード殿下を止めようともがくが、兵士にあっさり押さえつけられてしまう。後ろに控えていたエルダさんとドナートさんも、ラウロ様の方に行く前に兵士に阻まれてしまっていた。

 殿下の意図がわからなかった。なぜこんなことをするのだろう。なぜ躊躇いなく人に刃を向けられるのか、私には全くわからない。

 にやにや笑ってラウロ様に剣を向ける殿下を見ていたら、ふつふつと怒りが込み上げてきた。

 なんて嫌な人。早くラウロ様から離れて欲しい。

 あんな人にラウロ様に近づいて欲しくない。

 すると、私の体に今まで感じたことのない感覚が走った。それはまるで体内の熱が体の外まで流れ出るような感覚だった。
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