忘却の蝶は夜に恋う
ノクスの私室とイスカがいる客間を含め、部屋が六つほどある二階から一階に下りると食堂がある。厨房と隣り合うように造られたその空間の中央には、アンティークなデザインの茶色いダイニングテーブルがあった。
セバスチャンが腕を奮ってくれたのだろう。テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。
イスカは疲れた顔をしているノクスと向かい合うように座り、目の前のグラスを目線の高さまで持ち上げた。
「──改めて自己紹介をしよう、婚約者殿」
「紹介して頂かなくとも、名前は存じ上げている」
ノクスは淡々とした声音で返すと、グラスを口元に運んだ。どうやら乾杯する気力もないようだ。
「ならば私についての話をしよう。貴殿のことも聞かせてくれないか?」
「生憎、貴女に興味はない。貴女の耳に入れられるような話も一つもない」
イスカはグラスを傾けたまま、口の両端を上げた。
「そうか。それは残念だ」
ならば、とイスカは続ける。まだ会話を続けるのかと言わんばかりにノクスの眉が不機嫌に歪んでいたが、イスカはお構いなしに唇を開いた。
「趣味はあるかい? 休みの日は何をして過ごすんだ?」
「…………」
「好きな食べ物は? 嫌いな食べ物は?」
ノクスはイスカの質問に一つも答えなかった。初めから何もなかったかのように、静かに食事を続けている。
手元のフォークとナイフしか見ていないノクスに振り向いてもらう方法を考えながら、イスカはグラスを置いた。
セバスチャンが腕を奮ってくれたのだろう。テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。
イスカは疲れた顔をしているノクスと向かい合うように座り、目の前のグラスを目線の高さまで持ち上げた。
「──改めて自己紹介をしよう、婚約者殿」
「紹介して頂かなくとも、名前は存じ上げている」
ノクスは淡々とした声音で返すと、グラスを口元に運んだ。どうやら乾杯する気力もないようだ。
「ならば私についての話をしよう。貴殿のことも聞かせてくれないか?」
「生憎、貴女に興味はない。貴女の耳に入れられるような話も一つもない」
イスカはグラスを傾けたまま、口の両端を上げた。
「そうか。それは残念だ」
ならば、とイスカは続ける。まだ会話を続けるのかと言わんばかりにノクスの眉が不機嫌に歪んでいたが、イスカはお構いなしに唇を開いた。
「趣味はあるかい? 休みの日は何をして過ごすんだ?」
「…………」
「好きな食べ物は? 嫌いな食べ物は?」
ノクスはイスカの質問に一つも答えなかった。初めから何もなかったかのように、静かに食事を続けている。
手元のフォークとナイフしか見ていないノクスに振り向いてもらう方法を考えながら、イスカはグラスを置いた。