忘却の蝶は夜に恋う

「それは、君と恋がしたいからだ」

 ノクスの切れ長の瞳が大きく見開かれた一瞬を、イスカは見逃さなかった。月明かりを受けて蒼白く光るノクスの顔を見上げながら、羽根のように柔らかな声で告げる。

「私は君と、恋がしたい。だから君を選んだ」

 ノクスはゆっくりと瞬きをし、胸の前で組んでいた腕をほどいた。

「……僕にはその気がないのに?」

 イスカは微笑みながら頷いた。
 嫌がる相手を権力で縛るのはよくないことだ。それを分かったうえで、一方的に縛りつけたイスカのことを、ノクスはよく思っていないだろう。

 だが、それでも譲れないものがイスカにはあるのだ。身勝手だと分かっていても、掴まなければならないものがある。

 苦い表情をしているノクスを見ているうちに、あることを閃いたイスカは、ぽんっと手のひらを合わせた。

「ならばこうしよう。三つ、私の願いごとを叶えてくれないか?」

「願いごと?」

 ノクスの眉が跳ね上がる。何を言い出すのかと思えば、とでも言いたげな顔である。

「三つ目が叶えられた時、私は君の前に永遠に現れないと約束する」

 ノクスは顎に手を当て、訝しげな目でイスカを見た。
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