忘却の蝶は夜に恋う
「その願いごとというのは?」
「大丈夫。無理難題を押し付けたりはしないよ」
「僕は内容を聞いているんだが」
ノクスは眉間に皺を寄せた。面倒臭そうに息を吐きながらも、イスカの返事を待ってくれているようだ。
イスカは「コホン」とひとつ咳払いをしてから、すっくと立ち上がった。
「では、まず一つ目。次の休みの日、私と街へ出掛けて、ドレスを見立ててくれないだろうか」
「……ドレスを?」
意外なことに、ノクスは嫌な顔をしていなかった。不思議なものを見つけたような眼差しで、イスカの目を見つめ返している。
だが、それも束の間。すぐに目を逸らすと、難しそうな顔を作り、顎に手を当てた。
「貴族というのは、邸に仕立て屋を呼んであれこれするんじゃなかったのか?」
「それは世間一般論だよ」
「貴女は外れているというのか」
正解、とイスカは薄く笑った。続けて何かを言わんとしているノクスの唇に人差し指を当て、不敵な笑みを飾る。
「私は私の目の前で、君に選んでもらいたいんだ」
指先で軽く触れたノクスの唇は、刺々しい物言いをするわりに、とても柔らかかった。