忘却の蝶は夜に恋う
毎朝必ず飲んでいる野菜くずのスープは、セバスチャンが作ったもののようで間違いない。匂い、見た目、盛り付け方からそう判断したノクスは、その一品があることだけでも有り難いと思い、静かに席に着いた。
「ふふふ、驚いたようだね」
ノクスは白湯を喉に流し込んでから、イスカが作ったと思われる料理に目を遣った。サラダと思われる皿には、不揃いに千切られた葉物野菜がくたくたに盛られている。彩りで添えられたのであろう赤色の実はなぜか切り込みが入っており、そこから橙色の液と黄緑色の種がこぼれ出ていた。
徒歩数分の場所にあるパン屋で買ったであろういつものパンは、黒い塊へと変わっていた。そのままお皿に乗せて出すだけで良いというのに、何があったのだろうか。
「……セバスチャン」
ノクスは恨めしげにセバスチャンの名を呼ぶ。何故彼女を厨房に入れたのだと責めるように睨めつけたが、セバスチャンは嬉しそうに笑っている。
「パンは少々焦がしてしまったが、初めてにしては良い出来栄えだと思わないか? 特にこのソテーなんて」
「どこがだ。焦げの塊にしか見えない」
そうかな、と自信満々に語るイスカはノクスの向かいに腰を下ろすと、黒焦げになったパンを齧り始めた。
ノクスはため息を零してから、渋々フォークを手に取った。斜向かいに座ったセバスチャンは嬉々とした表情でパンを頬張っている。見た目は残念だが、味は変わらないのだろうか。
手に取って一口齧ってみたが、とても食べられたものではなかった。