忘却の蝶は夜に恋う


 その日、イスカは珍しくどこにも寄らずに、真っ直ぐに帰路についた。いつもなら警備で配置されている騎士に見つからないよう、穴やら壁やら隠し扉やらを使って、友人と呼べる人たちに会いに行くのだが、今日は気が乗らなかったのだ。

 ノクスの邸に戻ると、セバスチャンは庭で草むしりをしていた。日傘を差さずに帰ってきたイスカを見るなり、糸目を大きく見開かせ、急いで予備の傘を取りに戻った。

「おかえりなさいませ、イスカーチェリ様」

「……イスカでいいのに」

 イスカは差し掛けてくれた傘を受け取り、薄く笑んだ。

 セバスチャンは草むしりを終えたのか、雑草が入った麻袋を茂みの横に置くと、紐と呼ぶには頼りなさげな細い何かでその口を縛っていく。

「ほほ、そうさせていただきたいところですがの。ノクス様より先に呼ばせて頂くわけにはいきませんからのぅ」

「そういうものなんだね」

 イスカはほんのり赤みを帯びた顔を隠すように傘を傾け、セバスチャンの隣にしゃがみ込んだ。

「少しだけ、聞いてもいいだろうか。言えないことだったら、内緒だと言ってくれ」

「ノクス様に関することですかな?」

「うん。二人はいつから一緒にいるのかと思ってね」

 セバスチャンは何度かゆっくりと瞬きをした後、自慢の髭を弄りながら笑った。
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