絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
「ごめん……迷惑かけて……」
「迷惑なんかじゃないよ。クラスメイトなんだから気にしないで」

 それからすぐ、先生がやってきてセレナもお役御免となった。

(急がないと)

 始業のベルが鳴ったのは少し前だけれど、つぎの授業はセレナの好きな薬学のため少しでも早く授業に出たくて廊下を小走りに進む。
 しかし、本校舎を一旦出て特別棟に入ったとき、セレナの体は自分の意思とは反する方向に引っ張られた。それも物凄く強い力で。
 体が勢いよくなにかにぶつかったと思ったつぎの瞬間には、セレナは何者かに強く拘束されていた。

「っ⁉」

 突然のことで声も出なかった。否、出せなかった。

(な、なに⁉ 声が出ない……! もしかして魔法⁈)

 口は動くのに、声だけが発せられない。
 それならと、自分の動きを封じる相手を押し返そうと手を動かそうとするも、両手は教科書を胸元に抱きしめた格好のまま思うように動かなかった。
 これも魔法だろうか、と頭が理解する頃には恐怖で体が立ちすくんだ。
 自分の置かれている状況に、手足から熱が急速に引いていく。

「やっと二人きりになれたな」

 男の冷え切った声に全身が拒否反応を示すようにぞわぞわと肌が粟立った。体をくるりと乱暴に回された先、視界に捉えた相手を見たセレナは目を瞠る。

(マリック……⁉)

 以前、食堂で男子生徒に嫌がらせをしていた茶髪のマリックだった。

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