絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
唐突に呼ばれた本当の名に、全身が硬直した。自分以外の誰かにそう呼ばれたのは、何年振りだろうか。
バクバクと心臓が早鐘を打ち鳴らし、手が震える。
落ち着け、取り乱してはいけない。
必死に自分に言い聞かせながら、カラカラに乾いた口を開く。
「それは、し、死んだ妹の名前です殿下。……僕は……僕は兄のカイルです……」
「全て調べた。もう嘘はつかなくていい。君は、六年前に亡くなったはずの双子の妹のセレナなんだろう」
そこに、否定する余地はなかった。王族のアンリが調べたと言っているのだ、その調査結果に疑う余地などあるはずがないのだ。
「い、いつから……」
「初めて会った日、君の手首に触れた時……あまりにも細くて疑念を抱いた。それが確信に変わったのは、校外授業で君が足を怪我して抱き上げた時だ。男の骨格ではないのがすぐにわかった」
その後すぐに、人を使ってセレナの家を調べさせたのだとアンリは申し訳なさそうに言った。
あぁそうか、アンリの態度が校外授業後から一変したのはそのせいだったのかと内心で思う。
「そう、でしたか……。殿下を欺いて申し訳ありませんでした……。性別も名前も偽っていた罪は償います」
「罪を償うとしたら御父上のデュカス伯爵になるだろう。これは十歳の子どもにできることではないからな。――まぁ、今はそれは置いておいて……。俺に、告白の続きを言わせて欲しいのだが」
「こっ……こ……っ」
青い瞳は、どこまでも真っ直ぐにセレナを見つめていた。薄暗い室内で見るスカイブルーの瞳は、まるで星屑をちりばめた夜明けの空のように儚げに煌めいている。その美しさから、セレナは目が離せなかった。
処理しきれないことがいっぺんに降りかかって、頭が完全にフリーズしてしまう。
目を見開いたまま固まるセレナに構わず、アンリはセレナの長い絹糸のような髪を一束掬うと、口づけて煽情的な目を向けてきた。
「……っ」
恋人にするようなその仕草に、全身の血液が沸騰した。
きっと、自分は今ゆでだこになっているに違いない。なのにアンリは、容赦なくさらに畳みかけてきた。
「セレナ、君が好きだ。君のそばにいて、守りたい。――君を、誰にも渡したくない」
真っ直ぐな眼差しと言葉に、心が打ち震えた。