絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない


 体調の不安定なセレナを置いて学園を留守にすることに後ろ髪を引かれつつ、アンリは朝早く王宮へと帰った。ジャラジャラと飾りのついた重たく堅苦しい正装に着替えさせられ、隣国から来た王子だか王女だかをもてなす昼餐会に出席、その夜は社交パーティー、その翌日は国の資料館や美術館に彼らを案内をさせられ、とひたすらこき使われた。
 王宮に戻った昼下がり、ようやく一息つけると思ったのに王妃から隣国の王子と王女とお茶をするから付き合えと呼びつけられてしまう。拒否権などあるはずもなく、アンリは渋々三人とテーブルを囲んだ。さっきまでずっと一緒にいた二人と話すことなどなかったアンリは、聞き役に徹していた。

「――ところで、アンリ殿下はご結婚のご予定はないのですか?」

 斜め向かいに座った王子に前触れもなくそんなことを尋ねられたアンリは、表情を変えずに「予定はありません」と冷たく返す。

「この子ったら、魔法にしか興味がなくてつまらないのよ」
「そんなことございませんわ、王妃殿下。女性からしたら浮ついた殿方よりも、アンリ殿下のように硬派な方の方が好感を持てると思います」
「あら、そうかしら。王女殿下のように素敵なレディにそう言っていただけるなら母としても心強いですわ」
「妹はずっとアンリ殿下にお会いできるのを楽しみにしていたんです」
「まぁ、嬉しい! ねぇ、アンリ」

 お茶会と聞いたときに嫌な予感がしたのが的中してしまった。最初から自分と王女の仲を取り持つ算段だったのだ。
 内心で盛大に溜息を吐いてから、アンリは口を開く。

「私には身に余るお言葉でございます」
「まぁ、アンリったら照れてるのね」
「……」

 ときに女性は自分に都合の悪い話を聞かないものだ、と国王がしみじみとつぶやいていたのをアンリは思い出し、これ以上何を言っても無駄だろうとアンリは口を噤み、当たり障りのない返答に徹した。


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