絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
 誤解を解いてもなお、自分を卑下して苦しむセレナ。長年自分を偽って生きてきた彼女には、セレナとしての存在価値を見出せないのかもしれない。アンリは優しく諭すように言葉を紡いだ。

「俺だって迷惑だなんて思ったことは一度もないし、義務感で君のそばにいたんじゃない。……好きな相手のそばにいたいと、優しくしたいと思うのは当たり前だろう」
「す、き……?」

 ぽかんと目を見開き驚く彼女に、アンリは「そうだ」と頷いて見せる。

「あ……、それは友」
「友人としてではない」
「えっと……で、殿下、僕は……」
「――セレナ」

 そう呼んだ瞬間、セレナの体が強張るのがわかった。瞳には怯えすら浮かび、開いた唇はかわいそうなほど震えていた。

「それは、し、死んだ妹の名前です殿下。……僕は……僕は兄のカイルです……」
「全て調べた。もう嘘はつかなくていい。君は、六年前に亡くなったはずの双子の妹のセレナなんだろう」

 セレナは逡巡したのち、アンリの確信を持った態度に、否定することを諦めて自分がセレナだと認めた。そしていつから気付いていたのかと聞かれ、アンリは正直に校外授業のときだと伝えれば、欺いただの償うなどと言い出したので、アンリは「告白の続きを言わせて欲しいのだが」と懇願した。話がそれていたので戻しただけなのに、セレナは顔を真っ赤にして信じられないとでも言うような顔で固まってしまった。

 あんなことがあったばかりで心身ともに弱っている上、ずっと隠していた正体がバレて動揺している所につけこむようで少しだけ気が引けたが、なりふり構っていられない。
 セレナを誰にも渡したくない。
 異性として意識されていなかったとしても、これから意識させればいいだけだ。
 アンリは少しでも自分を異性として見てほしい一心で、セレナの絹糸のような美しい髪を一束掬って口づけた。

「……っ」
「セレナ、君が好きだ。君のそばにいて、守りたい。――君を、誰にも渡したくない」

 ありのままの想いを伝える。

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