君だけが、僕の世界
第3話 ゆづ、と呼ぶ声
『第3話 ゆづ、と呼ぶ声』
◯登校道・朝
・学校へ向かう道。真ん中に月々、左に結月、右に彩月。周囲の生徒たちがチラチラ視線を送る。
月々(心の声):(うぅ…ほんとに昨日の今日で迎えに来るとは…)
・月々が俯いて歩く。結月と彩月は月々を挟んで楽しそうに会話している。
・結月が月々の顔を覗き込む。距離が近く、月々の頬が赤くなる。
結月:「るー、体調悪い?」
月々(心の声):(綺麗な顔に…息が止まる)
◯10分前・マンション廊下
・月々が部屋の鍵を閉めていると、隣から結月と彩月が同時に出てくる。
結月:「あ、タイミングぴったり」
・月々の顔から血の気がサーッと引いていく。
・彩月が柔らかく微笑む。月々の頬が赤く染まる。
彩月:「おはよう、月々ちゃん」
月々:「お…おはよう」
・結月がいたずらな笑みを浮かべる。彩月は穏やかな表情。
結月:「偶然一緒になったし、一緒に行こっか」
・月々が結月を睨む。
月々(心の声):(この男…絶対わざと!)
◯登校道・現在に戻る
・周囲の女子たちがヒソヒソ話。視線が痛くて月々は俯いて歩く。
月々(心の声):(だから一緒に登校したくなかったのにー!!)
・彩月が月々の顔を覗き込む。距離が近く、月々の頬が赤くなる。
彩月:「月々ちゃんは、結月と同じクラスだったんだよね?」
・月々は言葉が出ない。
・結月が月々の代わりに答える。意地悪な笑み。
結月:「しかも隣の席」
・月々がムッとした表情になる。
・彩月が少し寂しそうに笑う。
彩月:「いいな、俺も2人と一緒が良かった」
・月々が心の中で泣きながら叫ぶ。背景に涙の効果。
月々(心の声):(わ、私もさっちゃんと同じが良かった――!!)
・月々の表情を見て、結月が少し顔を曇らせる。しかし月々と彩月は気づかない。
※場面転換
◯教室・昼休み
・いつも通り3人で机を合わせてお弁当。結月はチャイム後どこかへ行ったので、隣の席は日菜子が使っている。
日菜子:「朝、一緒に登校してきたんだって?凄い噂になってるぞ」
桜:「えっ…3人で!?というか、双子だったの!?」
月々:「実はね…」
・月々が昨日、空き教室で結月と話したことを伝える。桜が大げさに反応。
桜:「こ、子どもの頃から…両手に花…!」
月々:「そんなんじゃないからっ…!」
・日菜子が口を挟む。月々は困った顔。
日菜子:「私と結婚の約束をしたあの男の子はどっちなのー?ってなってるわけか」
月々(心の声):(運命かも!って思ってたのに、急にこんな展開になるなんて…)
・月々がため息をつく。桜と日菜子が見守る。
桜:「凹んでる月々に朗報だよっ。なんともうすぐ遠足があるのだ!」
月々:「え、遠足?」
・桜が胸を張って説明する。
桜:「先生の話聞いてなかったの~?午前中に川の清掃をして、次の日はねずみの国なんだよ!?」
月々:「そんなのあるの!?」
・日菜子がスマホを見せる。画面には“ねずみの国イベント情報:夜20時に花火”と書かれている。
・月々と桜が目を輝かせる。
・日菜子がスマホを閉じながら、意味深に微笑む。
日菜子:「大規模な恋の予感」
※場面転換
◯教室・午後
・先生が黒板の前で話す。生徒たちがざわざわ。
先生:「来週の遠足の話になるがー」
・“遠足”というワードに教室がざわつく。
先生:「川の清掃は5人一組になって行う。班は先生の方で勝手に決めさせてもらった」
・「えー!」とブーイングが飛ぶ。
月々(心の声):(桜と日菜子と一緒になれたらいいな)
先生:「考えるのが面倒くさかったので、隣とその後ろの席の4人な」
・月々の前に座る山下と斜め前のA子が振り返る。
山下:「櫻井さんと一緒だ~嬉しい」
月々:「よろしく~」
・月々がチラッと隣の結月を見る。
結月:「みんなよろしくー」 (棒読みで笑みもなく、意外と乗り気じゃない様子)
月々(心の声):(あれ…?こういうの好きかと思ったけど、意外と乗り気じゃない?)
先生:「午前中頑張ったら、次の日にはねずみの国が待ってるからな~」
・生徒たちが一斉に盛り上がる。
・チャイムが鳴り響く。生徒たちが立ち上がり、授業終了の雰囲気。
SE:キーンコーンカーンコーン――
※場面転換
◯遠足当日・河川敷
・河川敷・ゴミ拾い(全員体操服。結月は半袖で長袖を腰に巻き、髪を緩くハーフアップ。軍手をして黙々とゴミ拾い)
山下:「櫻井さん、あっちの方行かない?」 (月々の腕をぐいぐい引っ張る)
月々(心の声):(ち、力が強いなー山下くん…)
・結月は無言でゴミ拾い。月々が隣でしゃがみ、じっと見つめるとバチッと目が合う。
結月:「なに」
月々:「い、いや…なんか元気ないなと思って」
・結月が軍手を外し、月々の顔に手を伸ばす。月々が固まる。
山下:「櫻井さん手止まってるよー」
・声にハッとして結月は手を引っ込める。
山下:「てか、櫻井さんほっぺに土ついてるよ」
・月々が驚く。
・山下が笑いながら軍手を外し、頬に触れようとすると―― 結月がその手を振り払う。
結月:「その手で触らないで」
・結月が月々の手を引っ張り、ぐんぐん歩き出す。月々は必死に追いかける。
月々:「くっ、久我くん…待って、転んじゃう!」
・結月が急に立ち止まり、月々を受け止める。顔が至近距離になり、慌てて離れる。
結月:「るーってさ、男と距離近くない?」
・結月が鋭い目で睨む。いつもと違う怖い表情に月々が固まる。
結月:「俺、ただでさえ男が同じ班なの嫌なのに。許せないんだよね、あーいうの」
月々(心の声):(な、にを言ってるの?この人は…)
月々:「だ、だからって引っ張ることはないでしょ!」
・頬を膨らませる月々。結月は右手を後ろ首に置いてそっぽを向く。
・周囲の生徒たちがヒソヒソ話。月々が我に返る。
月々:「とっ、とりあえずゴミ拾おう!」
・お互い無言でゴミ拾いを再開。
月々(心の声):(なんでこんなことに…!いや、これも全部久我くんのせいだ!)
・月々がため息をつき、川の方へ1人で近づいてしゃがんでゴミ拾い。
彩月:「あれ、月々ちゃんじゃん。なんで1人?」
月々:「あっ…これにはわけが…」
・月々が彩月の声に驚いて立ち上がる。バランスを崩す。
・時が止まったような一コマ。月々が川へ落ちる。
・月々がそのまま川へ落ちる。
SE:ドボーン!
・水の中で目を開ける月々。ぼやけた視界の中から声が響く。
結月(声):「月々!!月々!!」
・目の前に結月の顔。お姫様抱っこされている状況。結月の髪から雫が落ちる。
月々:「さ…さむっ!」
・結月が月々を抱えたまま河川敷へ上がる。
・河川敷、彩月が駆け寄り、心配そうに月々を抱える結月を見て声をかける。
彩月:「大丈夫か!?」
・彩月が自分の長袖体操服を脱ぎ、月々に着せる。隣で結月は濡れた体操服を絞っている。
・月々がぶかぶかの体操服に包まれる。頬が赤くなる。
月々(心の声):(さ、さっちゃんの体操服…)
・彩月の班の子たちも駆け寄り、心配そうに声をかける。月々は小さく頷く。
彩月:「結月も大丈夫か?」
結月:「暑がりだし大丈夫」
彩月:「そういう問題じゃないだろ…」
・結月が髪をかきあげる仕草。少し不機嫌そう。
・月々が俯いて小さな声で。
月々:「ご、ごめん…私のせいで」
・結月がニッと笑う。いつもの意地悪な顔ではなく、優しい表情。
結月:「ほんとるーは、ドジだなー」
・月々が結月の笑顔を見て、ほっとしたように胸に手を当てる。
月々(心の声):(私のこと助けてくれたんだ…それにさっきまで怖い顔してたのに今は優しい顔…)
※場面転換
◯保健室入口
先生(声): 「何してるんだお前らー!着替えてこい!」
・先生は去り、静かな保健室。
・先生に怒鳴られて学校に戻った月々と結月。保健室に入ると2人きり。
・結月が勝手に棚を開けまくる。月々が慌てて止める。
結月:「保健室に着替えあるって言ってたけど、どこだよ」
月々:「先生来るまで待ってようよ」
結月:「だめ。るーが風邪ひく」
・結月が小さいサイズの体操服を見つけて月々に渡す。ニコニコ顔。
結月:「はい、着替えて。下着はあっちの棚にあったから自分で選んで」
・月々が戸惑いながら下着を選ぶ。
・月々が体操服を見つめて赤面。背景にドキドキ効果。
月々(心の声):(…まって!え!?ここで着替え!?)
月々:「と、トイレとか行くよ…」
・結月が月々をベッドの方へ促す。カーテンを持っている。
結月:「トイレ寒いからだめ。カーテンするから。ほら、着替えて」
・月々が追いやられるようにベッドへ。カーテンが閉じられる。
・月々がカーテンの中で着替えながら赤面。背景にドキドキ効果。
月々(心の声):(カーテンのすぐ向こう側に久我くんがいるのに、ここで着替えるのっ?)
月々(心の声):(心臓はちきれそう―――)
・月々が着替え終わってカーテンを開けると、上半身裸の結月が目に飛び込む。
月々:「きゃー!!」
・勢いよくカーテンを閉める。
月々(心の声):(なっ、なんで裸なの~?って、着替えてるから当然かー!それにしても、ベッドは隣にもあるんだし、そっちで着替えればいいのにー!)
・シャッと勢いよく結月がカーテンを開ける。月々がびっくりして目を瞑るが、結月はもう体操服を着ている。
結月:「保健室って、変な気分になるね」
月々:「え?」
・カーテンの中、二人きり。
・結月がカーテンを閉め、今度は同じベッドの中に2人。月々が緊張で固まる。
月々(心の声):(な、なに…)
・距離が縮まる。
・結月がじりじりと近づいてくる。月々は後ずさり、ベッドの端に足をつかえてバランスを崩す。
・月々がそのままベッドに倒れ、結月が顔の横に両手を置いて覆いかぶさる形に。
・至近距離で見つめ合う二人。月々の瞳が大きく見開かれる。
・結月の影が月々に落ちる。獲物を捕らえたような鋭い目つきの結月と、何が起こっているのか分からず混乱する月々。
モノローグ:――保健室の空気が、一気に張り詰めた。
・月々がベッドに押し倒され、結月が鋭い目で見下ろす。獲物を捕らえたような表情。
結月:「ほんと、危機感ない。見ててイライラする」
月々:「なっ…!?」
月々(心の声):(イライラ…!?)
・月々が納得いかない顔をすると、結月が右手で頬を掴む。
結月:「なにー?その顔」
月々:「…久我くんのこと分かんないっ!助けてくれたのは感謝してるけど…山下くんに怖い顔したり、変なこと言ったり!さっちゃんには優しいのに、私には意地悪だよね」
・結月の表情が曇る。月々が心の中で焦る。
月々(心の声):(あ…やばいかも)
・結月がさらに強く頬をむぎゅっと掴む。怒りマークが浮かぶ。
結月:「なんか勘違いしてない?るーに近づく男は、彩月だろうが誰だろが関係ないよ。まず、その久我くんって呼び方変えようか?」
・月々がうまくしゃべれなくなる。
結月:「ほら、昔みたいに“ゆづ”って呼んでみて」
・結月の手が離れ、優しい顔に戻る。
・月々が上半身だけ起き上がり、顔を赤らめて結月を見つめる。距離が近い。
月々:「ゆ…ゆづ」
・結月がすごく嬉しそうな顔をする。月々は恥ずかしさで視線を逸らす。
結月:「ん」
・結月が凄く嬉しそうな顔。月々は顔を赤らめて慌てる。
月々:「こっ、こんなことしてる場合じゃない!早く戻ろう!」
・月々が結月を押してベッドから降りる。結月は犬がしょんぼりしているような顔。
月々(心の声):(うっ…その顔に弱い…)
月々:「ほら…行くよ、ゆづ!」
・月々に名前を呼ばれて、ぱっと笑顔になる結月。
結月:「うん!」
・なぜか成り行きで手を繋いで歩いている二人。月々は戸惑い顔。
月々(心の声):(…ん?なんで手を繋いでるんだ…?というか、結局さっきの解決してなくないか?なんか名前を呼ぶことで丸められた気がする!)
・結月が月々の顔を覗き込み、クスクス笑う。
結月:「たのしーね、遠足」
月々(心の声):(なにも、楽しくありませんけど!?)
・楽しそうな結月と、正反対に困惑する月々。だけど手は繋いだまま歩いている。