君だけが、僕の世界
第8話 危うい優しさ

『第8話 危うい優しさ』


◯廊下・休み時間

・結月がスマホを見せながら楽しそうに話す。
結月:「ねぇ、るー。今度ここ行こうよ」
結月:「新しいお店できたんだってー」

・月々が少し俯きながら歩く。結月の隣にいる。
月々(心の声):(ここのところ、ずっと結月といる…)
・彩月の姿が頭に浮かぶ。遠くにいるようなイメージ。
ナレーション:――彩月とは、失恋したあの日から会えていない。

・結月が隣で笑っている。月々は複雑な表情。
月々(心の声):(隣同士っていうこともあって、結月の協力のおかげでなんとか会わずに済んでいる感じ…)
・結月がジト目で月々を見つめる。月々は少し気まずそうに笑う。
結月:「るー。俺の話聞いてる?」
月々:「え?うん」

・正直、何も聞いていなかったので目を逸らす月々。結月はため息をついて窓によしかかる。
結月:「…まだ彩月のこと忘れらんないの?」
・月々が“彩月”の名前を聞いて胸がズキッと痛み、悲しい表情になる。
・結月がその表情を見逃さず、じっと観察する。月々は俯いて沈黙。

・結月がふっと視線を変え、軽い調子で話す。
結月:「そういえば、最近リボンつけてないね?つけるのやめたの?」
月々:「え?あー…」
・月々が自分の首元を抑える。視線は泳ぎ、心の声が響く。
月々(心の声):(実は、隠されました…なんて結月には言えないっ…!)

◯回想

・1週間前の体育の授業後。彩月ファンの女子が月々のリボンを持っている場面。
ファンA:「このリボンどうする?」
ファンB:「捨てればいいんじゃない?」
・月々が陰から聞いている。文句を言おうとするが、唇を噛んで見て見ぬふりをする。
月々(心の声):(あの時…何も言えなかった…)

◯現在に戻る

・結月が月々を見つめ、声を落とす。
結月:「るー。俺はさ、るーのことならなんでも知りたいんだよね」
・リボンがついていない、無防備な月々の首元に結月の手が伸びる。
・片手で月々の細い首を掴み、少しだけ力を入れる。
・月々が目を見開き、息を詰まらせる。首元に結月の手が食い込む感覚。

・結月の瞳は鋭く、笑みは消えている。執着の色が濃く浮かぶ。
・月々が首を掴まれたまま、苦しげに声を漏らす。
月々:「うっ…」
月々(心の声):(えっ…なにっ…?)
・結月が顔を近づけ、低い声で問いかける。
結月:「困ってることとかない?俺に、助けてほしいこととかない?」
月々:「なっ…ないよ。あったとしても、1人で解決できるから…」

・結月の手の力がふっと抜ける。月々が安堵しかける。
結月:「…そう」
・その直後、結月の顔がぐっと近づいてくる。月々が驚いて目を見開く。
・気付いたら、結月の唇が月々の頬に触れていた。月々が硬直する。
月々:「へ…」

・月々がキスされた頬に手を添え、目を丸くする。肩に結月の両手が置かれている。
・結月がニコっと満面の笑みを浮かべる。瞳は優しげだが、どこか危うい光を宿す。
結月:「どう?これで、少しはあいつのことも考えなくてすむんじゃない?」
月々(心の声):(あいつって、さっちゃんのこと…?それにしても、キスなんて…)

・月々が急に顔を赤くして、目を丸くする。
ナレーション:――頬に残る温もりが、心臓をさらに騒がせる。
・結月が月々の肩に手を置き、優しく微笑む。
結月:「大丈夫だよ、るー。俺がいるから、るーは何も気にしなくていいよ」
月々:「なにそれっ、どういう…」

・廊下にチャイムの音が響く。結月が軽く肩をすくめる。
結月:「あ、教室行かなきゃ」

・月々が頬を押さえ、呆然と立ち尽くす。
月々(心の声):(何も気にしなくていいって、どういうこと?それに、そんな簡単にキスしないでよ~!)



※場面転換



◯昇降口・下駄箱前

・花と日菜子が談笑しながら靴を履いている。
花:「最近、寒くなってきたよねー。そろそろ、マフラー解禁かー」
日菜子:「コートも出さないとね」

・月々が下駄箱のロッカーを開けると、靴の上にリボンが置かれている。
月々:「え…リボン」
・桜が月々のロッカーを覗き込む。
桜:「あ、ほんとだ。誰か拾ってくれたのかな?」
・リボンの裏には“櫻井月々”の名前が書かれている。月々がそれを見て目を見開く。
ナレーション:――確かに、自分のものだ。

・月々がリボンをぎゅっと握り締める。瞳に決意の光。
月々:「ごめん、2人とも!先帰ってて!」
・桜が驚いて声を上げる。月々は背を向けて走り出す。
桜:「えっ、ちょっと、どこ行くの~!」

・月々が学校の中へ再び戻る。夕焼けの昇降口を背に、必死に走る姿。
ナレーション:――胸に握り締めたリボン。向かう先は、彩月のクラス。

◯教室

・月々が勢いよく教室の扉を開ける。走って息が切れている。教室にはまだ3人の女子生徒が残っていて、驚いた顔をする。
ファンA:「なっ、なんで…」
ファンB:「もう返したんだから、許してよっ…!」
・月々が彼女たちの怯えた様子を見て、眉をひそめる。

・月々がリボンをぎゅっと握り締め、一歩ずつ近づく。女子たちは後ずさる。
月々:「…私、こう見えて曲がったこと大嫌いなの」
・月々が声を張り上げる。怒りを込めた瞳。
月々:「面倒くさいから、放置しようかと思ったけど…。返すくらいなら、こんなことしないでくれる?周りの子たちまで、巻き込まないでっ!」

◯月々の回想
月々の脳裏に、リボンがなくなった時に一緒に探してくれた花や日菜子の顔、いつも心配してくれる結月の顔が浮かぶ。

・怒声に震える3人の女子。肩をすくめ、怯えた表情で後退する。
・怯えた様子でファンCが口走る。
ファンC:「も、元はと言えば結月くんがっ…」
月々:「ゆづ…?」

・ファンAが慌てて声を上げる。顔は青ざめている。
ファンA:「ちょっと!その名前出さないでよっ!」
月々(心の声):(どういうこと?なんでここでゆづの名前が…?それに、彼女たちのこの怯えよう…)

・ファンAが必死に頭を下げる。他の二人も同じように震えながら頭を下げる。
ファンA:「とっ、とにかく謝るからっ!もうこんなことしないし、あんたに近づかないからっ!今まで、ごめんなさい!」
・ファンBが顔を上げ、早口で言う。
ファンB:「ちゃんと謝ったからねっ!いこっ!」
・3人がガタガタと机にぶつかりながら、逃げるように教室から出て行こうとする。
・その背を見送るだけでは終われないと、月々が一人の腕をガシッと掴む。

・月々が腕を掴んだまま、必死に問いかける。
月々:「ねぇ、さっきのどういうことっ…ゆづが関係してるのっ?」
・ファンAが涙目で震えながら叫ぶ。
ファンA:「もう、お願いだから離してよっ…あんたといたら、私たち殺されちゃうっ…」
月々(心の声):(こ、殺されるって…誰に?)

・月々がさらに力を込めて腕を掴み、必死に訴える。
月々:「ねぇ、お願い!教えて!」
・観念したように、ファンAがゆっくり口を開く。声は震えている。
ファンA:「ゆ、結月くんが…これ以上あんたに関わったら、私たちのこと殺すって脅されて…」
・月々が呆れた顔をして、眉をひそめる。
月々:「ゆづが?いくらなんでも殺すなんて…」
・3人の顔は真っ青。肩を震わせ、目を逸らす。

・ファンAが怯えながらも声を張り上げる。
ファンA:「お、おかしいよっ、あんなのと一緒にいるなんて。確かに顔はいいかもしれないけど、人の心持ってないよあんなのっ…!」
・月々がキッと睨み、強い声で言い返す。
月々:「なっ…なんで、そんなこと言えるの?ゆづは、私を守ってくれただけじゃない!」
・ファンAが少したじろぎながらも、視線を逸らさずに口を開く。
ファンA:「だから、それは…あんたにだけでしょ…。あんた以外の人間なんて、結月くんからしたらただの道具だよ」

・ファンAが月々の手を振り払って、慌ただしく帰っていく。机にぶつかりながら逃げるように。
・月々が呆然と立ち尽くす。リボンを握りしめたまま。
月々(心の声):(頭が追い付かない…どういうこと…?)



※場面転換



◯通学路・夕方

・月々が一人で歩きながら考え込む。夕焼けの影が長く伸びる。
月々(心の声):(ゆづが…脅し…でも、彼女たちが嘘をついてるようには見えなかった…。あんなに震えてた…)
・月々が頭を抱え込む。表情は苦しげ。
月々(心の声):(あーもうっ…。ここのところ、ちゃんと寝れてないのもあって頭が痛い…!)

・月々が赤信号に気付かず、道路へ飛び出してしまう。
・轢かれそうになった瞬間、後ろから腕を強く引っ張られる。
効果音:プーッ!(クラクション)
・車が目の前を通り過ぎていく。
・引っ張られた反動で、しりもちをつく月々。顔は真っ青。
月々:「はぁ、はぁ…」

・通行人が駆け寄り、月々に声をかける。
通行人:「あんた、大丈夫か!?」
月々:「あ、はい…」
・通行人が月々の後ろへ視線を移す。
通行人:「兄ちゃん、ナイスだよ」
・月々が振り返ると、結月が地面に倒れて下敷きになっている。
月々:「ゆっ、ゆづ!ごめん、私っ…」

・結月がバッと立ち上がる。心底焦った表情で、はぁと大きなため息をつく。
結月:「ほんと、勘弁してよね。たまたま俺がいたからいいけど、いなかったら轢かれてたよ?」
・月々がしゅんと肩を落とし、うつむく。
月々:「ご、ごめん…」
・結月が月々の頭を優しく撫でる。
・結月が真剣な顔で月々を見つめる。
結月:「俺のいないところで死んだら、許さないよ」
月々:「き、気を付けます…」

・安堵している結月の顔を見て、胸がきゅっとなる月々。
月々(心の声):(やっぱり、優しい…それに、いつも私のこと助けてくれる)
・月々が笑って言うが、どこか不安そうな表情。
月々:「ありがとう…いつも、助けてくれて」
・結月が軽い調子で笑いながら言う。
結月:「もう、俺がいないとだめだねー、るーは」
・月々が唇をきゅっと結び、複雑な表情。夕焼けの光が横顔を照らす。

月々(心の声):(ねぇ、ほんとにゆづが“殺す”なんて脅したの?優しいのって、私にだけなの?)
・結月が子どもをあやすような調子で微笑む。
結月:「帰ろっか。危ないし、手繋ごうねー」
・結月が月々の左手をさらっと繋ぎ、歩き始める。月々は俯いたまま、振り払う気はない。

・月々が手に少し力を入れる。結月が歩みを止めて振り返る。
月々:「ゆ、ゆづ…」
・月々が震える声で言葉を絞り出す。恐る恐る顔をあげる。
月々:「このリボン…あの子たちに酷いこと言ったのは、ほんと…?」
・一瞬、結月の顔が冷めきったような無表情になる。月々がビクッと肩を震わせる。
すぐに柔らかい笑みに変わる結月。優しげに見えるが、その裏に何かを隠しているような雰囲気。

・結月が軽い調子で笑いながら言う。
結月:「酷いことなんて言った覚えないけど~。ちゃんと謝ってとは言ったかな?そしたら、彩月との仲を取り持ってあげるって」
・月々が驚いて声を荒げる。
月々:「なっ!?さっちゃんをダシに使ったの!?」
結月:「Win-Winでしょ?」
・月々が顔を歪め、リボンを握りしめる。
月々(心の声):(信じらんないっ!実の兄を餌に!深く考えてた私がバカだった!)

・結月が少し顔を近づけ、挑発するように言う。
結月:「いいでしょ?別に。それとも、まだ彩月をとられるかも~とか考えてんの?」
月々:「え?」
・結月がじーっと月々を見つめる。繋いだ手にグッと力を込める。
結月:「まだ好きなの?」
・月々が肩を震わせ、目を逸らす。結月の強い視線に耐えられない。
・月々が結月を睨みつけ、強い声で言い放つ。
月々:「さっちゃんのことは、もう好きじゃないっ!」
月々(心の声):(気付いたら、さっちゃんのことを考える時間も減ってたし、それよりも考えることが多すぎてっ)

・月々が顔を逸らし、赤くなった頬を隠す。
月々(心の声):(もう~~っ!ゆづのせいで、いろいろ、いろいろ…!!)
・結月はその姿を見て、口角を嬉しそうに上げる。月々は気付いていない。
・結月が楽しそうに笑いながら言う。
結月:「そっか、そっか~。るーは、今俺のことで頭がいっぱいか~」
月々:「はー?そんなことひとつも言ってないんですけどっ!」

・結月が繋いでいた手を離し、自然に月々の肩へ腕を回す。
月々(心の声):(だから、重いんだってっ…!)
月々がグイっと結月を押すが、びくともしない結月。
・月々が結月の笑顔を見て、ふっと力を抜く。
月々(心の声):(でも、笑って嬉しそうにしている結月を見ると…「まぁ、いいか」って気持ちになる)

・肩を組まれながら歩く月々が、ふと思ったことを口にする。
月々:「ゆづは、彼女とか作らないの?」
月々(心の声):(モテるんだから、作ればいいのに)
・結月があきれたような顔で月々を見下ろす。
月々:「なっ、なにその顔」
結月:「それ本気で言ってんの?俺、言わなかったっけ?」

・月々が目を丸くして問い返す。
月々:「な、なにを?」
・結月がため息をつき、少し視線を逸らす。意味深な間が流れる。
・結月が肩をがっちり掴んだまま、真剣な目で言う。
結月:「るーと結婚したいって」
月々:「なっ…はぁ!?」
・いきなりの“結婚”ワードに顔が真っ赤になる月々。驚いて結月から離れようとするが、肩をがっちり捕まれていて離れられない。

・結月が少し顔を近づけ、真剣な表情で続ける。
結月:「結婚の約束をしたのは俺じゃないけど。本気だって伝えたよね?」
・月々がたじろぎ、視線を逸らす。
・月々が震える声で言う。
月々:「ゆっ、ゆづのは本気に聞こえない」

・結月が月々の顔を覗き込むように近づく。妖しそうな微笑みを浮かべる。アップで結月の顔が描かれる。
・結月が真剣な瞳で月々を見つめる。
結月:「るーには、ほんとのことしか言わないよ」
・月々がドキッとしてさらに顔を赤くする。

・結月が少し笑みを浮かべながら続ける。
結月:「俺にとって一番大事なのは、るーだから。他は、なにもいらない」

◯月々の回想
・月々の脳裏に、彩月ファンの言葉がよみがえる。
・ファンの声(回想):――“あんた以外の人間なんて、結月くんからしたらただの道具だよ”
月々(心の声):(やっぱり、危険なのかも…でも…)

・月々が胸に手を当てる。トク、トクと鼓動が響く。
月々(心の声):(ゆづの言葉一つ一つに反応しちゃうのも事実…)
・月々が赤い顔で俯きながら、胸の鼓動を感じる。
月々(心の声):(私、ゆづに大切にされてるの、嬉しいんだ…)
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