「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
 目を合わせない夫と、手も触れるまま過ごす毎日。このままずっと、こんな日々が続くのだろうか。
 アンジェリカがそう思っていた頃だった。

「つまりブロムステット王は、私と妃の結婚を解消すべきだとお考えだと」
「はい、我が君はそのように申しております」

 生国から訪れた使者は王太子たる夫の前で跪いている。その実告げているのは至極手前勝手な、かの国の事情だ。

 おそらくもっと都合のよいと嫁ぎ先が見つかったのだろう。それはただただ父にとって、ということだけれど。

 ヴィルヘルムの顔色は変わらない。王族たるもの表情で何かを悟らせるようなことはない。自分もそのように育てられたから分かる。

 けれどその美点は、今はいたずらにアンジェリカの不安を煽るだけである。
 アンジェリカは一歩前に出て使者と向き直った。

「恐れながら」

 腹に力を入れて、声を出す。決してこの心の揺れを気取られることのないように。

「嫁いだからには、わたくしはもうファーレンホルストの財産です。それを不当に奪うようなことが、果たして許されるとでも」

 使者は真っ直ぐに、自分を見上げてくる。まるでアンジェリカがそう返してくることもお見通しだったみたいに。

「それは、正しく婚姻が果たされている場合だけではないでしょうか」

 腹の奥が一瞬で冷えた。飲み込んでいた石が、体の中で重く冷たくなっていく。

「『白い結婚では、それは婚姻が成ってないのも同じこと。四年も子を成さぬお飾りの妃など、何の意味を持とうか』」
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