「君を愛することはない」と言った夫が、記憶だけ16歳に戻ってまた恋をしてきます
 ヴィルヘルムが首を横に降れば、光の粉でも散りばめたようにシルバーブロンドが輝く。

 ゆったりとした夜着に着替えた夫を包む空気は、普段より幾分か砕けたものだ。下ろした髪はあどけなく、見えなくもない。

「大体、君に甘えすぎなんだ」

 膝に頬杖をついて顔を背けたかと思えば、拗ねたようにそんなことを言う。まるで他人事みたいに。

「やれ眠れないだの、膝を貸せだの。やることが幼いんだ。子供じゃあるまいし」
「十六歳なら十分に子供だと思いますけど」

「それに、俺はもう十六じゃない」
「わたしは、甘えてもらえて嬉しかったですよ」

 そう、アンジェリカは嬉しかったのだ。自分を真っ直ぐに慕ってくれる彼が、どうしようもなく愛おしかった。だから、今のヴィルヘルムに甘えてもらっても構わないのだけれど。

「えっと、殿下」

 無意識にそう呼んでしまったら、顰められた顔がますます険しくなる。もっともそんな顔をしていてもその美しさは損なわれることはなくてむしろ研ぎ澄まされるような気さえするのだけれど。

「寝台の上でまで“殿下”はやめてくれ」
 じゃあなんて呼べばいいのだろう。

「だんな、様?」

「それは、なかなかに魅力的だが」
 この顔を見る限り、少し違うらしい。だったらやはり、

「ヴィル……?」

「なんというか、あれだな」

 それだけ呟いて、ヴィルヘルムはぱたんと寝台の上に横になった。彼と手を繋いでいるアンジェリカも、自然と引っ張られて共に横になるようになる。
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