Existence *
「…あ、おはよう」


まだ6時過ぎ。

先に起きていた美咲はキッチンで朝食を作っていた。


「…はよ。ちゃんと寝た?」


冷蔵庫から水を取り出しながら美咲に視線を送ると、うっすら頬を緩める美咲と視線がかち合う。


「…うん」


そう呟く美咲は俺から視線を外し、棚からお皿を取り出した。

もう直感だった。

美咲は寝てない。

寝ようと思ったが、寝れなかった。に違いない。


だけど、そこには敢えて俺は口出しすることも出来なかった。

その日の夜、仕事が終わって一度帰宅し、病院に出向かった。


「あ、…翔さん」


病室に入る手前。

丁度、諒也と出くわし俺は足を止めた。


「おぉ、わざわざ悪いな」

「今、実香子さん居ます」

「あ、そうなん?」

「夕方ごろに酸素マスク取れたみたいで、今ゆっくりと会話してます」

「そっか」

「美咲は?あいつどうしてる?」

「うん。俺の前では普通。なんも弱音はかねぇわ」

「そか。お昼に葵が来た時に美咲が居たって言ってた。…誰の所為でもないって、言ってたって」

「そっか。…あ、香恋大丈夫だった?朝起きてから」


思い出したように俺は諒也に笑みを向ける。

そんな俺に諒也は困った様に苦笑いを漏らした。


「泣いて起きてきたわ。翔くんが居ないって、」

「ははっ、そっか。また行くわ」

「じゃあ、俺帰るわ」

「あぁ。ありがと」


諒也が帰って行ったあと、俺は病室の前まで来て扉を開けようとした。

だけどその手が不意に止まり、俺の足は待合室に向かう。

そこにあるソファーに腰を下ろして、俯いた。


入ろうと思ったが、実香子とお母さんの邪魔をしたくないと、そう思った。

何をどんな風に話してるのか分からないが、その二人を邪魔することが出来なかった。


当時、お母さんの担当をしていた実香子にとっては思い出深い何かがあるだろう――…
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