Existence *
「実香子ちゃんに言われたのよ」

「……」

「看護師なのに、お体の事気にしてなくて申し訳ございませんでした。って、」

「……」

「頭下げられちゃって。これは私の所為なのに…」

「……」

「翔くんもそう思ってるでしょ?美咲よりも長く居たのは自分なのにって、」

「…っ、」

「そんな風に思わないで。大丈夫だよ」

「……」

「翔くん、来てくれてありがとう」


…――翔、来てくれてありがとう。

心配で来たわけじゃなかった。

でも笑顔でお袋は俺にそう言った。


ただお金を貰いに行った俺に向かって、お袋はそう言った。


「…すみません、また来ます」


結局、あまり言葉を交わせないまま病室を出てしまった。

もう、ここに来ると、また思い出してしまう。


いや、むしろ忘れてはいけない事。

忘れてはいけない為に思い出さされているようなもんだった。


出来るだけいつも通りの普通でいようと思ってた。

だけどそう思ってるのは俺だけだったと、美咲が帰ってきて改めて思った。


「あ、おかえり」


風呂から上がって、首にかけているタオルで髪を拭きながら帰ってきた美咲に声を掛ける。


「…ただいま」


そう言って鞄を置いてきた美咲は冷蔵庫から水を取り出し、水を含んでいく。

その隣で俺はビールを取り出して喉に流し込んだ。


だけど隣からの視線で俺は視線を美咲に向ける。


「うん?何?」

「…え?」


ボーっとして俺に視線を向ける美咲はハッとして首を振った。

つか、なに?


「見過ぎ。そんな見んなよ」


思わずクスクス笑みを漏らす俺に美咲は戸惑ったように目を泳がせ、俺はまたビールを口に含んだ。


「ねぇ…」


小さく呟く美咲の声に反応する。


「うん?」


首を捻って美咲を見つめると、また俺の顔をジッと見つめてきた。

…なんかあった?


「翔って、給料いくら?」


まさかそんな言葉が出て来るなんて思ってもみなかった。

つか、なんでまた急に…

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