Existence *
「嫌とかそう言う問題じゃねぇじゃん。確かに比べ物にならねぇくらい減ってっけど、ある意味これが普通じゃん?俺が辞めるって言って辞めた事だし、今更何にも思ってねぇよ」

「……」

「つか低い給料の男は嫌?」


何を今更気になる所があるのだろうと思いながら俺は美咲に向けて口角を上げる。


「…嫌じゃないよ、…好きだよ」


美咲からのその言葉だけで更に笑みが零れる。

普段、全く口にしない美咲が言うなんて何があった?

としか思わなかった。



その夜。

結局、俺も単純で男なんだと思い知らされる。


「…ごめん、今日はさせて」


ベッドで寝転ぶ美咲に覆いかぶさりキスを交わす。


「ごめん、今日はさせって、なに?」


クスクス笑う美咲に俺も頬を緩める。


「俺も男だからずっと我慢も出来ねぇの」

「我慢してたの?」

「普通にするけど。美咲はしたくないだろうけど…」

「したくない、ことはないけど、」

「なに、その曖昧な言葉」

「え、いや…」


戸惑って恥ずかしそうに顔を顰める美咲に俺は頬を緩ませ、そしてその笑みはすぐに消した。


「…探らなくていい」

「え?」


美咲の笑みがスッと消える。

ゆっくりとかち合う瞳。


「昔の俺を掘り出さなくていい。憂鬱勘?劣等感?そんなもの今は必要ないから」

「…っ、」

「俺はずっと変わらず美咲が好き」

「うん」

「ずっとそばに居る」

「うん」

「もう、してい?」

「…うん」


微笑んでコクリと頷く美咲の唇に自分の唇を重ね合すと美咲の両腕が俺の首と背中に回る。

多分、美咲はあの頃と変わらないくらいの不安が舞い込んでいると感じてしまった。


ホストと言う職業。

当時は美咲を一番にと考えてやっていたつもりだが、美咲は不安にとらわれる毎日だっただろう。


――…あのさ、今更ながらに言うけど、翔がやってた事とか、私が知らなかった事が今更ながらに気になるの。


それが今になって、また掘り返して来て――…

余計な詮索はしなくていい。

昔を掘り返した所でいい事なんか掘りでては来ない。


そう、俺が昔の記憶を掘り返すように、何もいいことなど出ては来ない。


もう罪悪感しか、残らないから――…

そしてその罪悪感が苦痛へと変わる。
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