Existence *
最近ちょっと自分の勉強が疎かになっていた。

疎かと言うか、そこまで考える能力がないと言った方が正しいのだろうか。

美咲が居る空間では資料など広げたくはなく、仕事から帰って美咲が帰って来る数時間。


だけどその時間じゃ足りなかった。


「お前さ、仕事じゃねぇのに仕事とか言って、美咲ちゃんにバレたらなんて説明すんだよ」


真昼間。

蓮斗の事務所で俺は資料に目を通していた。

回転椅子に座って椅子を動かしながらタバコを咥え俺を見つめる蓮斗。


「別にやましい事してねぇし」

「やましい事ねぇ…。作業着着て来るんだったら分かるけど、私服かよ。なんの仕事だっつーの」

「他の女と会ってねぇんだから何もやましい事ねぇだろ」

「ま、お前の場合は俺にはわからん。女って、たまにどうでもいい事考えてっからさ、」

「つか、なに?その意味深」

「いや、別に」


クスクス笑いながら蓮斗はタバコを咥え軽く首を捻った。


「なんだよ、」

「この前、ユウトと会ったんだわ」

「へぇー…」

「で、会った時にさ、ユウトと一緒に居る女が楓に会いたいって言ってた」

「そう」

「辞めて、えーっと…半年?もう半年も経ってんのにお前の話がめんどくさいっつってた」

「俺もな」

「俺もなって、」


ケラケラ笑う蓮斗に一息吐き、俺は読んでいた手を止め、ソファーに深く背をつけた。

ほんと、それを聞くのがめんどくさい。

むしろ、あれから美咲は上の空。


詮索すんなっつったのに、してるのに違いない。


「そう思うのは事実だからな」

「ま、そんな声が美咲ちゃんの耳に届くと大変だな」

「……」


ごもっともすぎて何も言えなくなってしまった。

そもそもそんな声が美咲にまで届くはずがない。

でも、分かんねぇか。


あの美咲の生徒も俺の事を知ってたくらい。

どこのルートを辿って美咲まで辿りつくのかわかんねぇな。


「ほんと気をつけろよ、お前」

「つか、なんの心配してんだよ、」

「今後の心配。そんなココの鍵なんか持ってたら、どこの鍵ってなんだろうよ」

「事務所の鍵」

「んな事言っても信じっか?」

「蓮斗の事務所の鍵」

「何でそんなもん持ってんだって話」

「つかさ、お前なんなの?お前は女かよ」


呆れた様に顔を背けると、蓮斗は再び笑いだした。

そしてタバコを咥えて、面白そうに笑みを漏らした。
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