Existence *
俺も俺でそこまで鈍感ではない。

ここの数日間、上の空に入ってる美咲の姿を分からないわけではない。

ほんと、あの日から何考えてる?


「…最近、何かあった?」


ここまで一人の世界に入ってしまってる美咲に声を掛ける。

ソファーに座ってる美咲は何が?と言う表情で俺に視線を送る。


「何かって、何?」

「最近、上の空っつーか…考え事?してそうな顔」


戸惑うようにそう言った美咲の隣で俺は美咲の顔を覗き込んだ。

美咲は普通にしてるつもりだろうけど、俺もそこまで馬鹿ではない。


「上の…空?」


つか。その言い方だけでも何か思ってる呟き。


「うん。ボーっとしてるっつーか、何て言うか…」

「うーん…ママどうしてるかなって」


そう言った美咲はぎこちなく笑みを漏らした。

あぁ…、お母さんね。

まぁその考え事も当たり前の事。

この二週間、美咲はお母さんの事を俺にはあまり話しては来なかった。


そして5年前の入院していたことも、あれ以降何も言ってこなくなった。


「寝てんじゃね?もうこんな時間だし」


テレビの横のデジタル時計に視線を向けると23:40と数字が刻まれている。

その俺の視線を辿るように美咲も時計に視線を向けた。



「うん、そうかもね」


寂しそうな声で視線を落とした美咲は深くソファーに背をつけて自分の手元をジッと見つめた。

その美咲から一旦視線を外して立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、再びソファーに腰を下ろし水を口に含んだ。


「病院で先生に聞いた?」

「…え?」


タバコの箱から一本取り出し、火を点けた時、美咲が視線をゆっくりと上げ、俺に視線を送る。


「詳しく聞いてないだろ。今までの経緯」

「あー…うん」


やっぱりそうだと思ってた。

絶対に聞いてないと思ってた。

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