Existence *
美咲が風呂から上がり寝室へ向かった頃には21時を過ぎていた。

その美咲が寝たのを確認した俺はダイニングテーブルにパソコンを広げて、また昼間の残りの作業を打ち込んでいた。


あまりにも長い時間パソコンと向き合っていた所為か、目が疲れ一旦休憩をする為、タバコに火を点ける。

時刻は24時半を過ぎたところ。


そのままタバコを咥えたままベランダへと出る。

持っていた灰皿を手すりに置き、その手すりに背をつけスマホの画面に明かりを灯らす。

仕事に集中したいが為に切っていた音量。


いつの間にか流星から電話が掛かってきていて、俺は迷うことなく流星に折り返し電話をした。


「…はい」


暫く経って途切れたコールから流星の明るい声が飛んでくる。


「どした?」

「あー…、あのさぁ――…で、お前に――…」


後ろがうるさすぎて流星が言ってることが全く分からない。

懐かしく聞こえる店の音楽と弾けた周りの騒がしい声。


「おい、後ろがうっさすぎて何言ってんのか分かんねぇんだけど」


顔を顰めてタバコを咥え、俺はスマホを耳から少し離す。

ザワザワ、ガヤガヤした雑音が次第に小さくなっていき――…


「悪い、悪い。寝てた?」


移動したのか静まり返った空間に、「いや、」小さく俺は呟いた。


「あー、あのさぁ。社長がお前に会わせてって言ってた。いつ空いてるって」

「えー…それまだ顕在(けんざい)してたん?」

「そりゃすんだろ。暫く何も言ってこねぇから無くなったと思ってたのかよ」

「あぁ」

「そんな訳ねぇだろ」

「会いたくねぇけど、会っとかないとめんどくさくなりそうだな」

「お前いつ空いてんの?」

「わかんねぇ」


呟きながら灰皿にタバコを打ち付けて灰を落とす。

つか今それどころじゃねぇしな。
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