Existence *
「ペンギンの群れだよ。ほんとに香恋ちゃんみたいに物凄く可愛いんだから」

「いや、香恋はペンギンよりコアラだから」

「なにそれ」

「ずーっとしがみ付いてくんの」


そんな俺に美咲は声に出して笑い始める。

まじで。

出会ってしまったら最後と言っていいほどに俺から離れようとはしない。

だけど、あの可愛い顔で抱きつかれたら俺もどうしようもなくなるところが、笑える。


「香恋ちゃんって、ほんと翔の事好きなんだね」

「いっぱい遊んでっからなぁー…」

「そんなに?」

「うん、そんなにかも」

「どこで?」

「公園とか」

「公園って、翔が公園ってなんかウケる」


あはは。と笑う美咲に俺は思わず顔を顰める。


「なんもウケねぇわ。でも良かった。楽しそうで」


笑顔で思い出を語る美咲に内心ホッとした。

行くか行かないかで悩んでた美咲を思い出すと、改めて行かせて良かったってそう思った。


「うん。すごく楽しかった。翔のお陰だよ、ありがとう」

「別に俺はなんもしてねぇけどな」

「それすぐ言うよね」

「ホントの事言ってるだけだからな」


頬を緩める俺に美咲は何かを思い出す様にガラス張りの窓に視線を向けて一面に広がる夜景を見渡していた。


「綺麗だよねぇ…」


美咲がポツリと呟く。

美咲が言った通りここから見える夜景が物凄く綺麗だった。


俺の知らない5年間が美咲の思い出の会話によって埋まっていく。

どれくらい話したのかも分からなかった。


だけど、俺の5年の全てを美咲には言えなかった。

美咲に言えない内容が俺の奥底に眠っている。


それを掘り出してまで美咲に言う事は出来なかった。

今更、それを掘り返した所で、俺の気持ちが楽になるとは思えなかった。
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