Existence *
「どっか行くの?」


食べ終えて、車に乗り込んだ美咲は不思議そうに俺に問いかけてくる。

窓を開けてタバコを咥え、火を点けながら笑みを漏らした。


「内緒」

「内緒?」

「そう、内緒」

「なんで?」

「なんでも…」


もう少しだけ窓を開けて微笑む俺に対して、美咲は困ったように俺を見つめた。

しばらくして車を走らせて見えてきたのは懐かしい場所。


ここに来たいとずっと思っていた。

美咲と一緒に。


「…海」


ポツリと呟かれた美咲の声。


「帰ってきたら絶対初めに行くって決めてた。もう一回、美咲と来たかったから」


車を停車させて降りる。

潮の香りが鼻を掠め、打ち付ける波の音に俺は盛大に広がる海を見つめた。


「…懐かしいね」


歩く俺の背後から美咲の声が伝わる。


「あぁ」


あの時と同じ場所に俺たちは腰を下ろした。

ほんとに懐かしい。

最後。美咲と一緒に来て以来、俺もここへは来ることはなかった。

だからほんとに懐かしくて。

ここに来ると色んな思い出が蘇ってくる。


「やっぱいいね、海…」

「あぁ。つーか、向こうの海はもっと綺麗だろ?」

「うん。凄く綺麗だった。透き通ってるしさ、…また何年経ってでもいいから行きたい」

「じゃあ、いつかは行こっか」

「え?」

「いつになるか分かんねぇけど、一緒に行こ?」

「うん…行けたらいいね」

「行けたらじゃなくて行くんだよ」

「…うん」


俺を見てコクリと頷く美咲に俺も頬を緩ませる。

行けたら…じゃなくて、いつか美咲と行きたい。


美咲が見て来た5年間を自分の目で見たいと、そう思った。
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