Existence *
閉店したと同時に足を踏み入れる。

昔いた店。

あの頃と何も変わらない風景が目に飛び込んでくる。


「お前、なんか飲む?」


ソファーに座った俺に流星は声を掛ける。


「水でいいわ」

「水?」

「車で来てっし。家で飲もうとしてたらお前が来いっつーから」


そう言いながら咥えたタバコに火を点け、煙を吸い込んだ。


「俺の所為にすんなや」

「ほんと、どいつもこいつもいい加減にしろや」

「は?なに?」


つい呟いてしまった言葉に、流星はテーブルに水を置きながら何故かクスクス笑う。


「なんもねぇわ」

「なにそんなお前怒ってんの?」

「怒ってねぇよ。めんどくさいっつってんの」

「あぁ、それ俺だから。リアがやけにお前の事で突っかかってきてよ、アイツの所為であっちの店行けんかったわ」

「で?リアは何しに来たんだよ」


目の前に置かれたペットボトルの水を口に含み、タバコを咥え流星を見た。


「なんか分からん」

「は?」

「お前が辞めた事に対してとか、ここに戻って来る事を不服そうに言ってた。正直、俺もめんどくさくてちゃんと聞いてねぇんだわ」

「つかそれ、お前がカラ返事ばっかしてっから怒ってんだろ?」

「違う、違う。お前で怒ってたのは事実だし」

「なぁ、つかさ、なんで俺がこの業界に戻って来るって話になってんの?」

「まぁ、あれだろ?社長がお前に話し込んでるって言う噂が流れてたからよ、そこから戻るって話になってんだろ」

「……」

「リアの奴も言ってたけど。お前が戻って来ねぇって言ってたけど、話しが違うだとかなんだとか」

「それ、お前からなんとか出来ねぇの?」

「出来るかよ。ほっとくしかねぇだろ」

「ほっててこれだからな」

「こんなめんどくせぇなら辞めんかったら良かったって思ってる?」

「そんな訳ねぇだろ」

「お前、リアとなにがあったんだよ?あんまあの女怒らすなよ、まじ怠いって」

「は?つかよ、アイツが美――…」


そこまで言って俺は口を紡ぐんだ。

アイツが美咲に余計な事すっからだろ。なんて言葉はさすが流星にも言えなかった。

言えば余計にめんどくさくなる。


別にそこまで言う必要もない。
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