Existence *
「…美咲?」

「……」


駐車場に着き、眠っている美咲の肩に手を置き何度か揺する。

だけど、美咲の目が開くことなく、俺は更に声を掛けた。


「美咲?」

「…着いたの?」


呟きながらゆっくりと目を開けていく美咲は眠そうに手で目を擦る。


「あぁ」


車から降り、いつも通る地下からのフロントへあがるエレベーターの前に数人が話し込んでいるのを目にし、俺はそこを避けて地上に出た。


「こんなマンションあったっけ?」


マンションを見上げる美咲は不思議そうに首を傾げて辺りを見渡す。


「あー…ここ?今年の初めに建った。だからそれと同時に引っ越した」

「へぇー…そうなんだ」

「前より部屋は小さいから何も物とか置いてねぇの」

「うーん…翔の感覚ってやっぱ分かんないや」

「なんだそれ」

「…家賃高そう」

「高いっつっても、前の半分以下だし」

「へぇー…これでね。しかも最上階」

「あ、そうそう。別に最上階じゃなくても良かったんだけど、なんかここしか空いてなくて。あと何個か下の階にあったけど1LDKだったし」

「そうなんだ…」


部屋に入ると美咲は呆然と辺りを見渡した。

見渡すところで何もねぇのに。

ほんと何もなくて、そっけない空間。


「あ、そういやさ。引っ越しする時に美咲の服が数枚あったからクローゼットに入ってる」

「まだあったんだ」

「うん。…そっちの左」


指でその方向を指すと、美咲はそのまま足を進めていく。

そんな美咲から視線を逸らし、俺は冷蔵庫から水を取り出し乾いた喉に流し込んだ。


「あった?」


飲み終えた後、美咲が居る部屋に顔を出す。


「あー…もういいや。捨てちゃっても」


そう言いながら美咲は数枚ある服をハンガーから外して床にポトポトと落としていく。
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