Existence *
「いや、会ってたら俺の事なんか言ってたかなーって」

「なんだそれ」


クスクス笑いながらタバコの煙を吐き出していく。


「俺、最近会ってねぇから」

「俺も会ってねぇよ。会ったところでお前の話なんかなんもしねぇわ」

「そう」

「なんかあったのかよ」

「いや、珍しくあいつから電話あったから」

「へぇー…」

「なんかいい気しねぇんだよな。あいつからの電話」

「だろうな。お前に掛かってくんのは夜の仕事以外なんもねぇって事か」


クスリと笑って煙を吐き出す蓮斗も同じ事を思っていた。

やっぱりアイツからの電話はそれしかない。

夜から外れてもう5ヶ月は経つ。

その間、夜の噂は俺には必要ないくらい飛んできていた。


戻ってきて、と言う女の声は今でも聞く――…


「あ、おかえり…」


気怠いまま玄関の扉を開けると、美咲が笑みを見せて出迎える。

その美咲の姿に疲れも眠さも吹き飛び自然と笑みに変わる。


「ただいま。今日はあっちに帰ってんのかと思った」

「一旦帰ってまた来たの」

「そっか。…ってあれ?もしかして飯、作ってくれた?」


ポケットに入っているタバコとスマホ。

そして手に持っていた鍵をテーブルに置きながら、俺はキッチンへと視線を向けた。


「あー…うん。って、もしかして食べた?」

「いや、まだ。帰ってラーメン食おうと思ってた」

「ラーメンってカップラーメン?」

「そうそう」

「ラーメンばっか食べてたらダメじゃん」


顔を顰めて言う美咲に苦笑いが漏れる。

お前はいつから俺の母親になったんだ。と思った。

5年前じゃ考えられねぇわ。

帰って来た美咲にそこを説教させるなんて思ってもみなかったわ。
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