Existence *
「そうだなぁ…もう夜の世界から足を払ったから」


置きっぱなしにしていた灰皿にあるタバコが既に短くなっていて、それを押しつぶし火を消す。

そしてテーブルに置いてあった箱から一本取り出して口に咥えた。


「私は楓が辞めた事、認めてないんだけど。ねぇ、もう一度戻ってきてよ」

「……」

「今でも楓が好き」


火を点けて吐き出す煙と同時に俺はフッと笑みを漏らした。


「俺が好きって?」

「そう。好きよ」

「お前が好きなのはホストでNO1だった俺が好き。今は何もないただの庶民。地位もなければ一流でもない。そう、お前が一緒に来ている男とは違う」


頬杖を付き、ゆっくりタバコを口に持って行き、煙を吸い込むと、隣のリアが不快にも笑った。


「何それ。あなたにどれだけ愛をつぎ込んできたの思ってるのよ」

「そこは…俺もリアに感謝してる。リアが居なかったら俺はあの地位には居られなかった。お前が居なかったら――…」

「じゃあ、抱いてよ」

「は?」


タバコを咥えたままリアを見つめた。

見つめる先のリアはクスリと笑みを漏らす。


「感謝してたら抱いてよ。楓言ってたじゃない。ホスト辞めたら抱けるって。今は違うから私の事抱けるでしょ?」


確かに言っていた。

ホストの客は抱かないと。

ホストをしている間は客を抱かないと。

辞めたら抱けると。

ただ、あの頃は俺の中で想いを寄せる奴が居なかったから。

でも今は違う。

美咲が俺の中に居る――…


「つかよ、男居んのにそう言う事言うか?令嬢の姫と御曹司の男。そっちの方がお似合いだと思うけど」

「本気でそう思ってる?」

「思ってる。…婚約者じゃねぇの?」

「そう言う事になってるだけ」

「そう言う事?」

「昔っからそう言われてるだけ。会社の為って事かしら。だから愛は何もないのよねぇ…あの男も同じよ」

「……」

「あるのは楓だけ。私の理想は楓なの」

「お前からしたら俺は何の価値もない男。よっぽどあの男の方が価値はある。地位も、名誉も欲しい物すべて持ってる。あぁ言うのが理想っつーんだよ」


そう言って頬を緩め、俺はタバコを灰皿に打ち付けながらグラスを口元に運んだ。
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