Existence *
「初めの頃は日本の友達ともほとんど英語だったんだよね。あとは現地の友達とひたすら英語。とりあえず会話スピードに慣れたくて、そこまでいくのに結構頑張った」

「頑張りすぎだろ。なのにバイトもして、ほんとすげぇね、美咲は」


ぶっちゃけ美咲がそこまでだとは思ってなかった。

なんでも必死で頑張るとこ、昔から変わってねぇな。

そりゃそんな必死になってると、俺と電話してる暇もねぇよな。


「なんも凄くないよ。英語しか取り柄ないもん。翔と比べたら全然だよ」

「何も凄くねぇのに俺と比べんなよ」

「だって、ほんとにそうだもん」


今日は行けないけどまた行くね。と言った美咲を下ろして俺は仕事に向かう。

結局、また行くね。の言葉が8月の終わりだった。

学校の事で相変わらず忙しそうにしている美咲に、逢おうとも逢いたいとも言えず、俺も俺で仕事とこの先の事で会う暇などなかった。


日曜日の朝、先に起きた俺は久しぶりに線香の束を掴んだ。

今月の命日も行くことすら忘れてて、さすがに行かねぇと沙世さんに怒られるなんて思ってしまった。

いや、お袋に会いに行かないと。の方が正しいのかもしれない。


正直、どれくらい行ってないのかも分からないくらいだった。


「おはよう」


暫くして起きて来た美咲の声で俺は振り返る。


「おはよ」


俺は持っていた線香をテーブルに置き冷蔵庫に向かった。


「美咲、何食う?」


冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出しながら声を掛け、グラスを取り出し、そこに注ぐ。


「ねぇ、これって何?」

「え?」


不意に聞こえた美咲の声に俺はグラスから視線を離し、美咲を見つめると線香を持って首を傾げた。


「この線香」

「あぁ。墓行こうと思って」

「お墓?」

「うん、そう」

「誰の?」

「お袋」

「…お母さん?」

「そう。ぶっちゃけた話し、もうどれくらい行ってねぇんだか分かんねぇ…」


お袋に対して申し訳なく感じ、情けない笑みを浮かべた。

そう。行こうと思ったきっかけは美咲を見て行かないとって思ってしまった。

いつもお母さんの事を大切にしている美咲を見ると、俺も足を運ばないとって思ってしまった。


ほんと、どれくらい行ってないんだろうか。

半年以上は言ってない気がする。
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