Existence *
「もし、今も生きてたら俺の人生…違ってたのかも知んねぇな」


ゆっくり目を開けて目の前の墓石に視線を送る。

線香からまっすぐに伸びていく煙を見つめながら俺は口を開いた。


「…違ってた?」

「そう。生きてたら俺はホストの道には歩んでなかった」

「……」


なりたいとも、やりたいとも思わなかった業種。

だけど、それをしないと生きてはいけないと思ってしまった為にしたホスト。

それがいい事か、悪い事かは分からないけど、今となっては色んな経験もしたし、沢山感謝した場所。


「でも、ホストになったから美咲と出会えた。…なんか変な話だな」


晴天な空を仰いで俺は密かに笑う。


だから俺はホストをしてて良かったって、今更ながら思う。

じゃなきゃ、美咲とは会えていないし、こうやって一緒に居る事もない。


「…お母さん、優しかった?」

「うーん…分かんねぇ」


小さく呟いて記憶を辿って思い出す。

そして情けなく笑みを零した。


だって、なんも思い出も何もねぇし。

あるのは後悔だけ。


「…わかんない?」

「ほら、俺…あんま当時に記憶ねぇんだわ。家にも帰らず悪ばっかしててさ、金ばっか取って、何一ついい事した記憶がねぇの」

「……」

「でも、そんな俺に対して何も言ってこなかったから優しかったのかな」

「……」

「きっとまだ恨んでるかも知れねぇな。今はもう、ゴメンって言葉しか言えねぇけど…」


ほんと、どれくらいゴメンの言葉を言ってきただろうか。

13年経っても、まだその言葉を言ってしまう。

きっと俺がもっと大人になっても、その言葉を言うに違いない。


俺を産んで後悔した事もあっただろうに。

世間から色んな言葉を言われて苦しかっただろうに。


「そんな事ないと思う」


不意に聞こえた美咲の声に俺は美咲に視線を送る。

美咲はボーっとお墓を見つめてからゆっくり俺に視線を向けた。

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