Existence *
「じゃなくて、あいつ教師だから」

「え、えぇっ、教師?美咲ちゃん、教師なの?」

「そう」

「え、ちょっと大丈夫なの?」

「なにが?」

「教師なんて若い男に持ってかれるじゃない」

「……」

「生徒と教師の禁断の恋じゃない」

「……」


面白そうに沙世さんは頬に笑みを作る。

その言葉に再び俺は眉を寄せた。


「私が学生の時、居たのよ!生徒と教師の禁断の恋。あの人達どうなったんだろぉ。翔くんも気をつけて!」


つか何言ってんだよ、ほんとに…

その前に面白がって言ってる沙世さんに顔を顰めた。


「そう言うの言わねぇでくれる?」

「あ。って事は、翔くんも思ってんだ」

「……」


思ってなくはないけど、そう言われると年齢に勝てる自信は俺にもない。

最近、みんなが美咲のことを美人だと言う。

それがちょっと鬱陶(うっとお)しくて、こうもまぁ他の奴らに言われたら、俺も俺で気になる。


ほんと、男の嫉妬ほどめんどうなものはない。


「へぇー、そっか。あんな先生居たら毎日授業でたくなるよね?」

「つか沙世さんさー…、俺の事困らせようとしてんの?」

「ううん。全く」


そう言った沙世さんはニコッと微笑んで、空いたグラスに麦茶を注ぎ込んだ。


「あ、それよかさ、」


不意に思い出したかのように沙世さんが俺を見て口を開く。


「なに?」

「翔くんは翔くんで大丈夫なのー?」

「なにが?」

「歴代の女の子達が辞めたアナタを待ってるって耳にしたわよ」

「ほんと、なんでも知ってんのな」

「夜の業界に居たらそんな噂、簡単に耳に入ってくるわよ」

「へぇー…」

「で、どうするの?」

「どうするって何が?」

「戻るか、戻らないか」

「戻る訳ねぇだろ」

「だと思ったけど、楓ロスはまだまだ続きそうよね?あなたも大変ね」


クスリと笑った沙世さんに思わずため息を吐き捨てた。

食べ終わって、ソファーに移動し、タバコを咥える。

それと同時に沙世さんがテーブルに言っていた資料を何冊か置いた。
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