Existence *
9月に入って一瞬間が経った。

ここ数日間は美咲が来て、俺が仕事から帰ってきたら夜ご飯が作ってあって。

それを食べて風呂に入った後に美咲が帰って来ると言う毎日で、この日も風呂からあがりリビングに向かおうとした時に玄関のドアが開いた。


「おかえり」


リビングに行く足を辞め、玄関に向かう。


「ただいま」

「飯、食ったよ。美味しかった」

「ごめんね、いつも居なくて」


リビングに行き鞄をソファーに置く美咲は申し訳なさように俺に視線を向けた。


「別に平気。それは今まで美咲にさせてきた思いだから。それに俺、そんな子供じゃねぇし」


そう言った俺に美咲は頬を緩め、「先、お風呂入って来る」そう言って美咲は風呂場へ向かう。


ほんと今までずーっと美咲を一人にさせていた。

だから考えてみれば思い出って思い出はあんまりなくて、むしろ昔よりも今の会う回数を数える方が多い。


そう思うと不意に苦笑いが零れ落ちる。

どんだけ会ってなかったんだよって話になる。


風呂から上がった美咲は最近はいつもソファーに座り教材をテーブルに並べる。

そしてスマホから流れて来る動画の英会話。

それを読み取ってノートにスラスラ英文を書き始めていく。


ほんとに俺からしたら何?って感じで。

その英会話の動画の意味も分かんねぇし、何言ってんのかもわかんねぇ。


だけど今日の美咲はいつもと違うかった。

まだ流れてくる英会話を止め、ソファーにうな垂れる様に背をつける。


「疲れてる?」


冷蔵庫から取り出したビールと共に美咲の隣に腰を下ろし、その広げてある教材の英文を俺は読む。

全て読めるわけでもない。

読めるところを抜き出して口を開いた。


「…やっぱさすがだね」


美咲は頬に笑みを作って、俺を見た。


「うん?何が?」

「頭の出来が違うって事」

「何だそれ」


ほんと何言ってんだか。

頭の出来が違って、誰と比べてんだよ。


そう思いながらテーブルに置いてあるタバコを咥え火を点けた。


< 75 / 159 >

この作品をシェア

pagetop