Existence *
「留学までしてこんなに頑張ってんのに、もしかしたら翔の方が頭いいかも」


だから比べる相手間違ってっし。

あんなひたすら英会話の動画見て、何言ってんのか分かんねぇのをスラスラ聞き取って筆記してるお前にだけ言われたくねぇわ。


「それはねーな。だって、この文から既に読めねぇしっつーか略せねぇよ」

「でも、人間って不思議だよね…」


小さく呟く美咲はソファーに深く背をつけてため息を吐き出す。


「つか、急にどした?」


いつもと違う美咲に視線を送りながら俺はタバコを咥えたまま教材をペラペラと捲る。

学校の教科書と英語の小説と言ったらいいのだろうか。

英語だからもちろん日本語など書かれてるわけでもないが、全て英文で書かれてあるこの本を読める美咲は相当に頭がいいと思い知らされる。

最近、美咲が置いて帰る本と言えば英文の本ばかり。

これを読めて俺のほうが頭がいいって?

ほんと、何言ってんだよって話。


「聞いてなくても寝てても頭のいい人いるから人間って不思議だよ」

「どこかで努力してんだよ」

「そうには見えないけど」

「んじゃ、例えば俺の話。俺って高校行ってねーじゃん?」

「うん」

「行ったって言っても数か月。でもその期間サボってばっか。なのになんで俺、英語読めてんの?」


読めるって言っても、ほんとある程度だけ。

こんな美咲が持ってる英文の小説とかはスラスラ読めるわけでもない。


「え?それは勉強してたからじゃん」

「ほら、勉強してんじゃん。だからどこかで頑張ってんだよ」

「あぁ、そっか…」

「教科書開けなくてもボーっとしてても耳には入ってんだよ。あとは努力と才能」

「うーん…」


ソファーに深く背をつけてる美咲は考え込むようにして首を捻り、そして何故か密かに笑みを零した。
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