Existence *
「ううん。出勤前の店の子にも手伝ってもらったの」

「へぇー…」

「いっぱいあるから食べてね」


微笑んだ沙世さんは一旦この場から離れ、俺は目の前に出された料理に箸をつけた。


「楓さーん!ちょっとだけ飲みます?」


隣に腰を下ろしたアキがビール片手に口角を上げた。


「いや。俺、車で来てっから」

「えー、なんでこんな時に車なんすか?」

「早く帰るつもりで来たから」

「もぉ、俺と久々なんだから朝までいましょーよ。俺は楓さんと会えなくなって寂しいっす」

「お前にはタケルが居んだろうよ」

「そんなタケルは今では蓮斗さん派っす」

「あー…、子守な」


箸を動かしながら俺は面白そうに笑みを漏らす。


「それに俺も誘われるんすよ」

「いいじゃねぇかよ」

「蓮斗さんに言われたら断れねぇっす。んであの綺麗な梨々花さんにごめんねって言われたら、全然大丈夫っすって言ってる俺って」

「お前、ホスト辞めてタケルと託児所でも作っとけよ」


ハハッと笑うと、「託児所って何の話してんだよ」背後から聞こえた流星の声に俺は振り返り視線を送る。


「いや、子守してるっつーから」

「おぉ。いいじゃねぇかよ」

「いやいや、それはねぇっす。でも子供は嫌いじゃないっすよ。あ、でも香恋はちょっと…」


顔を顰めて首を捻るアキに、思わず俺はクスクス笑みを浮かべる。

どこに行っても出て来る香恋の名前に苦笑いしか出てこなかった。


「この前たまたま公園でタケルとアキと香恋が居てよ、その場に顔出したらアイツ俺にも翔くん翔くんっつってんの。んじゃあ、アキがよ、お前俺と遊んでんのに他の男の名前出すんじゃねぇよってマジで怒ってたもんな」

「つか俺よりタケルなんかお前うっせぇよって言って香恋の口塞いでたもんな」

「塞いでたってなに?」

「キスで塞いでんだよ」

「お前ら何しんの?」


呆れた様に呟く俺の隣で流星はケラケラ笑っている。


「そんで香恋、いやって言ってゴシゴシ口拭いてんの」

「あれはマジおもろかった」

「なー、タケルっ!お前、香恋とキスして嫌がられたよな」


アキが後ろのテーブルに向かって声を投げると、タケルが「そうそう」顔を顰めてこっちに足を進めた。


< 82 / 159 >

この作品をシェア

pagetop