Existence *
まだワイワイと騒いでる中、俺は一人先に帰宅をした。

帰って風呂場に直行し、シャワーを浴び、そのまま冷蔵庫へ向かう。

そこから取り出した水を口に含んでいると、不意に鳴り出した着信の音。

その音に導かれるように俺は足を進め、テーブルにあるスマホを掴んだ。


…美咲?

時間は23時をとっくに過ぎている。

こんな時間に、どした?


「…美咲?」


出てすぐに美咲の名前を呼ぶ。


「ママが…ママが…」


そう言って美咲の声が掠れ、息が乱れているのが電話越しから聞こえる。


「お母さんがどうした?」

「……」


だけど美咲から聞こえてくるのは震えた呼吸。

それだけで何故か嫌な予感がした。


「美咲?」

「帰ってきたらママが血を吐いてて動かないの…」


…っ、

俺の嫌な予感が的中したみたいに少しだけ手が震えてしまった。


「すぐ行く。とりあえず救急車呼べ」


一方的に電話を切り、俺は急いでスエットから私服に着替え、病院まで車を走らせた。

こんな日がいつかはくるだなんて全く考えていなかった。

考えてもいなかったし、思ってもみなかった。


美咲が帰ってきたことによって、俺はお母さんに顔すら見せていなかった。

だから安心しきっていた。

美咲が居るから大丈夫って。

だから、美咲が帰ってきてから身体の事を全く気に掛けてはいなかった。


美咲の家の前で車を停め、俺はインターフォンを鳴らす。

だけど出て来る気配のない美咲に、俺は玄関のドアを叩いた。

叩いて再びインターフォンを鳴らす。


「美咲っ、」


玄関から叫んで、何してんだよ。と、思いつつドアを叩くと、暫くして美咲が玄関のカギを開け、そのドアを俺は勢いよく開くと、目に涙を溜めた美咲が目に飛び込む。

そんな美咲を通り越して、俺は開かれたトイレの中を覗き込んだ。

俺の後に電話をしたのであれば、もう救急車も着いてはおかしくない時間。

なのに、その向かってくる音さえも聞こえない。


「救急車は?呼んだのか?」


そう言いながらぐったりと倒れ込んだお母さんの姿が目に入り、そのお母さんの身体に触れる。

触れながら美咲を見つめると、美咲は手を震わせながら首を横に振った。


「はぁ?何でしねぇんだよ、呼べっつっただろ」


思わず美咲に苛立ちの声を飛ばしてしまった。

そんな俺に対しても美咲は今でも泣きそうに突っ立ってるままだった。
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