Existence *
電話をしようともしない美咲に顔を顰め、俺はポケットからスマホを取り出し救急車を呼び寄せる。


「ママっ、」


小さく漏らす美咲の声に反応して視線を上げると、溜まっていた美咲の目から一粒の涙が零れ落ちる。

そして震えた唇を隠すかのように美咲は震えた手で唇を覆った。


「美咲?」

「…っ、」

「美咲っ、」


息を切らす美咲の瞳からまた新たに涙が零れ落ちる。

俺はその場から立ち上がって、震える美咲の身体を抱きしめた。


「大丈夫。大丈夫だから…」


抱きしめて、震える身体の背中を擦って、美咲の身体を離す。

何を大丈夫と言ったのかも分からないが、今はその言葉しか美咲にかける言葉が見つからなかった。

ぐったりして顔色が悪いお母さんをジッと見つめて、ポロポロと涙を零していく美咲。

その頬に伝う涙を俺は指で拭い、リビングからティッシュを取り、ソレを美咲に差し出した。


暫くして聞こえて来るサイレンの音。

救急車で運ばれていくお母さんの後を追っかける様に美咲と病院に向かった。


「ご家族の方はここで待っててください」


看護師にそう告げられ、俺と美咲はソファーに腰を下ろす。

隣の美咲は涙すらもう出さないが、俯いて動くことすらなかった。


5年前にお母さんが入院していた病院。

もうここへ来た時点で、5年前の事が全て美咲に分かるだろうと思っていた。


隠していたこの5年。

いつかは美咲にもバレるんだと、思っていた。

時間が経つごとに居てもたってもいられなくなってしまった。


落ち着かない――…


「ごめん、ちょっと」


ポケットから取り出したタバコを美咲に見せると、ゆっくりと頷く。

頷いた美咲を見て立ち上がった俺は外に出て、タバコを咥えた。


火を点けてタバコを咥えたままスマホを操作する。


そしてスマホを耳にあて、俺は一息吐いた。
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