Existence *
「…はい」

「悪いな、こんな時間に」

「どーしたんすか?」


電話越しから聞こえる諒也の声に俺はもう一度深いため息を吐き出す。


「美咲のお母さんが倒れて今、救急車で運ばれた」

「…え?」

「今、検査してて多分5年前の事を美咲が知ることになる」

「…マジか、」

「とりあえず5年前の事は俺の所為にすればいいから。俺が美咲には言うなって言ったのは事実だし」

「いや、結局俺も同意したわけだし」

「多分美咲はお前にも何か言いに行くと思う。何言われても俺の所為でいいから」

「でも翔さん、」

「葵ちゃんにもそう言っといて。もう今日は遅いし、また明日にでも…」

「美咲はどーしてんの?」

「今は落ち着いてるけど。…一応お前には報告しとこうと思って」

「美咲のお母さん、病院行ってなかったって事?」

「わかんね。俺も美咲が帰ってきたことによって全く気にしてなかった」

「まぁ…俺もそうだけど」

「今、検査してて詳しい状況が全く分かんねぇから、またなんかあったら言うわ」


電話を切った後、俺は病院の壁に背をつけて、空を仰ぐ。

真っ黒な夜空に向かって、俺はゆっくりとタバコの煙を吐き捨てた。


どうすっかな、と思いつつも結局はどうすることも出来なくて、暫く佇んでしまった。

タバコを消し、再び病院に入ると――…


「…――危険な状態です」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!ママは元気でした。ここ数日もずっと元気でした!なのにそんな事ないでしょ?」

「見えない部分で悪化していたんだと思われます」

「あの…助かるんでしょうか?」

「再発がカナリ進んでまして。今の科学では完全復活する医療も――…」

「違うの。そうじゃないの!私は助かるのかって聞いてるんです!」

「助かる見込みは極めて少ないと思います」


医師がそう告げた後、俺は目を瞑り深く息を吐き捨てた。

そして目を開け、視線を前に向けると俺に軽く頭を下げた医師がその場を立ち去り、俯いて目を抑える美咲へと近づいた。
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