君が大人になった時、もしまだ俺のことが好きだったなら・・・
「母さん!どうする!
ねーちゃんが男連れ込んでる!
しかもイケメン!」
「何言ってんのよ!
先生だから!
お見舞いに来てくれたの!」
「え?先生?」

驚いた顔をしていた母親の顔がガラッと変わって仕事のような顔を見せた。

「まあ、先生でしたの?
いつも娘がお世話になってます」
「いえ。数学を担当しております、浅倉と申します」

「うちの近くに住んでる先生がいるって話したでしょ?あの先生だよ」
「ああ、あの時の。
その節は娘を病院まで連れて行ってくださってありがとうございました」
「いえ。大した事はしていませんから」

当たり障りのない、定型文の挨拶を交わし、小林の話をする。
そして少し話をした俺は帰ることにした。

「それでは、私はそろそろ失礼します」
「お見舞いに来ていただいて、勉強まで見ていただいてありがとうございました。
4月からは学校にも通学できると思いますので、またよろしくお願いいたします」

弟が、
「よかったよな、手術しないなら試合に間に合うんじゃん!」
と喜んだ。

「え。あーーー、うん。そうだね」
弟くんの無邪気な態度から彼が小林の事情を知らされていないことを知る。

小林は口角を上げ、
「間にあう!私、頑張って間に合わせる!」
と力強く言った。

その唇は小さく震えていた。

「そうね・・・」
母親は小林の手を握り、目を潤ませ、
「先生」
と俺を呼び、
「どうぞ、娘をよろしくお願いします」
深く頭を下げた。

俺は、
「はい。私も小林さんのことを応援してますから」
と頷いて、ベッドから離れた。

小林はニコリと微笑んで
「また来てね」
と手を振った。

俺は母親と弟の前で手を振ることは憚れて、
「また来るから。
それまでしっかり勉強してください。
分からないところは教えるから、付箋貼り付けて置くんだぞ」
「はーい」

手を振る小林は吹っ切れたように笑っていた。
彼女が前を向いてくれたことが嬉しい。


俺は小林の笑った顔を思い出し、また明日来ようと思いながら駐車場へ向かった。






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