クリームソーダだけがおいしくなる魔法
アミューズにふっくらした牡蠣が出た。軽くボイルしユズの皮を散らしている。1滴の魚介の濃厚なソースの上をユズの冬のさわやかさが通りぬける。カクテルはキルシュにオレンジジュースを混ぜたものが半分に切った赤いドレンチェリーとともに小さなガラスのグラスで供された。おちょこみたいな。
「おいしいね」
「うん」
ひかえめにほほ笑みあって牡蠣を静かにたいらげた。カクテルを楽しみながらまたあたりさわりのない会話で手探りしている。舌の上でキルシュのふくいくたる甘さと牡蠣の遠い海への憧れみたいな香りを転がしながら。
うちの両親は心配性だった。3姉妹の三女である私を見た目ではわからないくらいの加減で束縛し、彼にそれとなく近況を聞いている。頼まれたら断れない彼はあたりさわりのない範囲で「元気みたいですよ」などと答えている。なぜ私本人に聞かないのか。謎。
おかげで彼は月に2度も私と会うルールをみずからこしらえてしまい、3年間律儀にそれを守りつづけている。幼いころから私は、イケメンってこんなに生きづらいものなのか、と彼を見ながら育った。芸能界へ行くような性格ではない彼は、ときどき私に「整形したい」とこぼしていた。
どうやら彼の美貌は隔世遺伝のようだ。彼の両親は普通の顔だが、ふたりいる兄は彼とは違うタイプのイケメンで、ひとりは起業し、ひとりは研究者。すでに妻子を持っていた。
「おいしいね」
「うん」
ひかえめにほほ笑みあって牡蠣を静かにたいらげた。カクテルを楽しみながらまたあたりさわりのない会話で手探りしている。舌の上でキルシュのふくいくたる甘さと牡蠣の遠い海への憧れみたいな香りを転がしながら。
うちの両親は心配性だった。3姉妹の三女である私を見た目ではわからないくらいの加減で束縛し、彼にそれとなく近況を聞いている。頼まれたら断れない彼はあたりさわりのない範囲で「元気みたいですよ」などと答えている。なぜ私本人に聞かないのか。謎。
おかげで彼は月に2度も私と会うルールをみずからこしらえてしまい、3年間律儀にそれを守りつづけている。幼いころから私は、イケメンってこんなに生きづらいものなのか、と彼を見ながら育った。芸能界へ行くような性格ではない彼は、ときどき私に「整形したい」とこぼしていた。
どうやら彼の美貌は隔世遺伝のようだ。彼の両親は普通の顔だが、ふたりいる兄は彼とは違うタイプのイケメンで、ひとりは起業し、ひとりは研究者。すでに妻子を持っていた。