シンデレラは豪雨の中で拾われる
「意地悪しすぎちゃいましたね」
 
 彼はそう言って、私の頭をそっと撫でた。その指先は優しく、まだ理性が残っていることを教えてくれる。だが、彼の瞳はもう私から離れない。薄暗い中でも、射抜くような熱を宿していた。
 もちろん、私も彼しか見ていない。彼のような魅力的な人に口説かれて逃げるなんて、そんなことできるはずがない。

「玲央さん」
「…はい」
「私、逃げる気ないでしょう?」

 茶化すように言葉を紡げば、彼は一瞬真顔に戻った。それから、深く深く息を吐き出した。決意を固めたかのような、少しだけ震える息遣い。彼の葛藤が、まだほんの少しだけ残っている。それがたまらなく愛おしかった。大切にされていると肌で感じる。

「私だって、あなたに愛されたくて仕方ないんです」
「……もう、我慢できませんよ」

 そう言って彼は、指先を私の顎に滑らせて顔を近づけてきた。彼の吐息が、先ほどまで話していた熱をそのままに、私の肌をかすめる。部屋の空気が、急激に熱を帯びていくのが分かった。

 唇が触れる直前、彼はもう一度、まるで許しを乞うように呟いた。

「美玖さん…愛してます」
「私も愛してます、玲央さん」

 その一言で、彼の瞳に怪しい光が強く灯った。もう遠慮はない。熱い唇が、私の唇を塞いだ。
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