シンデレラは豪雨の中で拾われる
「先方が、うちの会社と取引をする条件として『合同プロジェクトの窓口担当に、佐々木美玖さんをアサインして欲しい』と、指名してきたんだ。代表取締役からの直々のご指名だ」
「し、指名…ですか?」
「そうだ。君の能力が適切に評価されたのだろう。社長としても誇らしいよ」

 能力なんて、評価されるほど秀でたものはない。せいぜい、ミスをしないように丁寧に仕事をしたぐらいだ。
 困惑しながらも、私はその資料の代表取締役の欄に目を滑らせた。

  『代表取締役 葛城 玲央(かつらぎ れお)』

 その文字を見た瞬間、私は一瞬息が止まった。なんなら、小さく悲鳴も上げた気がする。
 
 (まさか…そんな、偶然が)
 
 葛城という苗字は珍しいと思う。フルネームでの一致を偶然として流すのはさすがに無理だ。
 
(もしかして……鍵も、偶然じゃなかった、? 全部、わざと、?)

 私は、東京で葛城さんに名刺を渡していない。
 でも、もし彼が私の名刺を何らかの方法で手に入れていたとしたら?

 そんなことをぐるぐると考えていることを露知らず、社長は真剣な眼差しで私のことを見た。

「社運をかけているプロジェクトと言っても過言ではない。我々も全力でサポートするから、どうにか頑張ってくれないか?」

 社長直々にそんなことを言われれば、もう逃げ場はない。
 声が震えないように気を付けながら、まずは社員としての回答を捻り出した。

「はい、尽力いたします」

 社長は私の答えに、満足そうに頷いた。
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