シンデレラは豪雨の中で拾われる
 その後、プロジェクトに関する打ち合わせを終え、私はそのまま休憩に入った。
 
 未だに私の心臓は、激しく脈打っている。彼の紳士的な態度の裏に潜んでいたのは、ただの好意ではない。獲物を追い詰めるかのような、執着と策略。それは負の感情ではないものの、異常なほどの愛情に違いない。
 あまりにも彼の手の平の上で転がされすぎている。でも、今更もがいたところで、どうにもならないことだと分かっている。

____今は、あなたの意思を尊重しましょう
 
 あの時、別れる直前に彼はそう言った。『今は』という言葉に違和感を感じたが、まさかこんな大掛かりな罠が仕掛けられていたなんて…。
 
 彼は、再会への布石を複数打っていた。鍵は、その内の1つ。気づいた瞬間は疑念だったが、ここまで揃えば核心に繋がる。そして、どういうわけか、私の勤めている会社を特定し、プロジェクトに乗じて決定的で運命の再会を演出してきたのだ。

 しかも、全く悪い話ではない。会社としては、嬉しくてたまらないプロジェクトだろう。

(あの人は…どこまで、私のことを調べているんだろう。私がこの会社の社員だって知って、わざわざ…)

 彼の溺愛は、もう私の日常を完全に侵食し始めている。
 逃げる場所はない。私はガラスの靴ではなく、王子の用意した罠にかかって、間違いなく再会することになるのだ。

 重たい資料を抱え直す。
 強引で独占欲の強い社長との再会を恐れると同時に、ほんの少しだけ期待している自分がいるなんて、…信じたくなかった。
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