シンデレラは豪雨の中で拾われる
「マナーは二の次で構いません。まずは食事を楽しみましょう」

 葛城さんは私の様子に気づいたのか、静かに微笑んだ。その笑顔は優しくて、私の不安を解こうとしているように見えた。恥ずかしいが、そう言ってもらえると非常に助かる。
 私は改めて、目の前の肉料理を口に運んだ。口の中に広がる、経験したことのない繊細な味に、思わず目を見開く。先ほどは緊張で味がしていなかったが、それを後悔するほどの美味しさだ。
 
 葛城さんは、そんな私を見てニコニコと笑っている。まるで、私が美味しく食べている姿を見ることが、彼の最大の喜びであるかのように。過信ではない。明らかに慈愛に満ちた目だ。

「普段は、仕事相手か1人で食事をすることが多いので、こうして落ち着いて食事ができて嬉しいんです。だから、どうか佐々木さんも緊張なさらずに食事を楽しんでください」

 その言葉に、私は少しだけ肩の力が抜けた。

(どうして葛城さんは私に声を掛けてくれたのだろう)
 
 彼は、話し相手が欲しかっただけなのだろうか。
 
 偶然か、気まぐれか。
 それとも、運命か。

 考えても分からない小さな疑問が、浮かんでは消えていた。
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