水魔法をまっすぐにしか飛ばせない落ちこぼれ令嬢ですが、意外とお役に立てそうです

第一話

 馬車の窓にぶつかる雨粒の音が、雨の激しさを物語っている。
 森を行く馬車は道がぬかるんでいるせいで揺れがひどく、気を張っていないと乗り物酔いしてしまいそうだ。
 それでもナディナの心は穏やかだった。

 ――だってもう、魔法の弱さを馬鹿にされないから。姉にも両親にも。

 魔導師エリート一家、アルカンティエ伯爵家。
 一族は皆、二属性の魔法を使いこなせるのは当たり前で、誰もが国の重要なポストに就いている。
 しかしナディナはなぜか水魔法しか使えなかった。


 降りしきる雨を見ながらため息をつく。
 ふと、姉の声がよみがえる。

『あんたの水魔法より、雨の方がまだマシね』――。

 ナディナには、一属性しか使えないこと以上の大きな弱点があった。
 それは、魔法を【まっすぐに飛ばすことしかできない】こと。
 なんとかしたくてひとりで練習していると、いつも姉から馬鹿にされた。

 ――どうして私だけ、こんな落ちこぼれに生まれちゃったんだろう。

 父の怒鳴り声は、今でも耳に焼き付いている。
「こんな出来損ない、嫁に出すのも恥ずかしい」と。

 その声を思い出すたびに、胸がぎゅっと締め上げられる。
 息が詰まる。

 そうしてナディナは、修道院送りされることになったのだった。


 馬車は今、崖沿いの道を走っていた。それでも御者は、さっさと仕事を済ませたいのかスピードを落とす気配はない。
 揺れる馬車の中で身を竦ませながら、小声で呟く。

「ちょっと怖いかも……。でも『私がスピードを落とした方がいいですよ』なんて言っても、きっと無視されるだろうな」

 どうか無事に、崖を抜けられますように……!
 両手を握り合わせて祈る。

 次の瞬間。

 ずしゃっ、と――土がえぐられるような音が聞こえてきた。
 続けて馬のいななき。
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