推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_5話:土下座

『決して。決して浮気も、一晩の関係もない。そもそも経験がない。俺と…家族の命をかけて誓う』

問題は解決できないと踏んだアンジュは、その晩、泊まりに来たアルフレードに件の女性について相談した。
女性とあった経緯から、今までの出来事を隠さずに伝える。すれば、彼はみるみる顔を青ざめ、膝をついた。床に擦りつけるまで頭を下げて、身の潔白を訴える彼の行動は、どちらかと言うと間違いを犯した場合の反応ではあるのだが…彼は必死である。
ようやく最近、婚約者が自分の好意が本物だと信じてくれている。照れ臭そうに顔を赤くしながら受け入れてくれる。そのふんわりとした笑顔といったら、可愛くてたまらない。それが身に覚えのない事で、全て振り出しに…いや、下手すれば関係が終わってしまう恐怖が支配する。
しかし身の潔白は証明できない。全身全霊で無実を主張するしか彼には方法がないのだ。勝手に命を掛けられたランゲ家族も同じ反応をしたに違いない。

まぁそれはアルフレードの事情であり、突然婚約者が頭を下げて潔白を訴えられれば驚くというもの。アンジュは慌ててアルフレードの身体を起こそうとしゃがみ、肩に手をかけると力を少しかける。
そうすれば普通の男性なら簡単に姿勢を正せるのだが、アルフレードの身体は動かなかった。

((うむ。きちんと鍛えているな。流石だ!))

さらに力を入れればアルフレードの肩を痛めてしてしまう恐れがあるったため、アンジュは諦めた。代わりに膝をつき、彼を抱きしめる。

『大丈夫。疑ってないよ』

揺らぎないアンジュの言葉。彼女の温もりを感じ、頭を優しく撫でられるもアルフレードはどうしようもない不安でいっぱいになる。

『それは…俺が誠実な人間だからか?』

上目遣いのアルフレードの瞳は潤んでいる。弱気になった愛おしい人の心に届くよう、アンジュはしっかり断言する。

『アルフレードからの愛を信じてるから』

鈍いアンジュとて、毎日のように愛を紡がれ、行動で示されれば分かってくる。本気で、真剣に自分を愛してくれているのだと。

『………あぁ、ありがとう。警戒する。班長たちや、家族にも聞いてみる』

『うん』

アンジュの腕の中で頷いたアルフレードは、今度は自分の腕の中に愛おしい婚約者を閉じ込める。頬や額などあらゆる所に沢山のキスを送り、頬を擦り寄せる。

((ごめんね、アルフレード))

まるで子供が必死に縋るようで、アンジュの胸は締め付けられた。1人で過ごすことの多いアルフレードは、涼やかな目元やまとう雰囲気も相まって孤高な男性なイメージをもたれがちだが、結構寂しがりやだ。
アルフレードが物心つく頃、歳の離れたアルフレードの兄たちは勉学や仕事に励まねばならず、両親も仕事で家を空けることが多かったと聞いている。友人もおらず、ほとんど実家に篭り1人黙々と訓練に励んでいた。軍に入隊してから友人ができ、ブルナー家との付き合いが出来てから人生が楽しそうだと、彼の次兄が遠い目をして話していたのが強く記憶している。本人が「寂しい」と言ったことはない。恐らくアルフレード自身が自覚していないのだ。

((ちゃんと向き合えばよかった。早く気づけば、君の空も広がらなかったかな))

好きな人を、婚約者を、推しを、大切な人を無駄に傷つけてしまった。過去は変えられないが、反省と未来がある。
アンジュは戦うと決めた。誰であろうと、アルフレードの隣を譲らない。化け物なら化け物らしく、宝を独り占め。

『アルフレード。私は君と別れる気はないよ。君の隣に、私はいる』

誓いだと、彼女は自ら彼に口づけるのだった。
< 37 / 74 >

この作品をシェア

pagetop