推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_9話:事件

重い話を切り上げ、新しい話題へ切り替える。
女子会はビアンカの夫が屋敷に戻るまで、それは楽しい時間が続いた。

また後日集まる約束をし、4人は別れたのだった。







その晩。
緻密に並ぶ建物の間にある、怪しげな店が並ぶ路地。どこか楽しげな声も、荒げた会話も聞こえる。甘みの強い香りに酒、煙でここのエリアだけ世界が変わった雰囲気がある。
ある宿屋の一室。窓に立つ全裸の男。
灰色の短な髪に、同じ色の瞳を持つ美顔。彫刻のように美しい肉体を誇る若者は、虚ろに道を見下ろしていた。

冬の冷たさに漂い、夜をふらついていた精霊がその男の姿を捉えた。

男の姿は、まさに”アルフレード”であった。





「…妄想ではなかったのですねぇ」

アンジュは真剣みの少ない、のんびりとした言葉が出てしまった。
有給翌日の中央本部。出社するや否や上司に手招きされ、水の張った盆を覗き込む。”写みの石”と言う、魔力で記憶を保存できる石がある。それを水に沈めれば、たちまち場面が現れる便利素材だ。ウィリアムが今朝精霊から受け取ったというそれは、裸の婚約者が写っていたのである。


窓辺に立つ”アルフレード”はしばらく街を見つめ、カーテンを閉める。場面が動いていく。精霊は建物に近づいていき、壁をすり抜けた。部屋にはすでに男はおらず、生まれたままの姿で眠る令嬢しかいなかった。

まごう事なき不貞現場。
朝から刺激的である。ウィリアムもツキヨも黙ったまま。ピーターは気まずげに、水面から目をそらしている。

「本人か分かるか」

「なんとも」

「だよな」

偽アルフレードかはわからない。それほど、記憶に映るのはアルフレード本人の姿である。
アンジュは水面を半時計回しにかき混ぜる。すると水面に映る場面は戻り、一から映し出された。アルフレードが窓辺に立つ場面へ、何度もくるくると、くるくると。水面を凝視する彼女の姿を側から見れば、不貞の証拠に頭が壊れた女そのものである。
知らぬものなら誤解する状況も、上司である彼らは違う。繰り返す場面はアルフレードの全身が写ったところ。

「なにかあるんだな」

「…なんとなくの、違和感ですが」

「なら違和感の元を辿れ。婚約者を裸にしてでも突き止めろ」

ウィリアムは魔石を取り出すと、2つに割る。写し石は割り、増やすことができる。内蔵する映像は劣化も欠如もしないのだから、面白い仕組みである。

「この後エゼリオ班、そしてご家族にも共有する。ブルナー、ピーターはここで待機し、今日の業務に入れ。副班長、一緒に来れるか」

「はい」

「あ、少々待ってください!」

アンジュは慌ててロッカーへと戻り、ある物を取り出す。部屋に戻り封筒の中に仕舞うと、ウィリアムに差し出した。

「恐れ入りますがコレをアルフレードを渡してくださいますか。渡せばわかるかと」

ウィリアムは受け取った封筒を胸ポケットに仕舞うと、ツキヨを引き連れて部屋から出ていった。
上司2人がいなくなり、部屋の静けさが引き立つ。アンジュは半分の大きさになった石を盆に沈め、1人改めて記憶を除く。映る、裸の婚約者。

「はだか、か」

「え」

呟きに驚いたピーター。思わず2人は顔を見合わせた。

「お、大人ですね」

初々しい反応をする後輩に、アンジュは思わず1歳違いだけではないかと突っ込んでしまう。彼が言うほど、大人びた進展はないのであるが。冬の寒さに負けない熱い展開にまで発展できるかは、問題の解消と、アンジュとアルフレードにかかっている。
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