推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。
3章「vs麗しきご令嬢」_10話②:今度の対策
消化しきれない感情を抱え、アルフレードはまず寮へと戻る。
急いで荷物をまとめると、アンジュの元へと向かった。渡された鍵を使い借家へ入る。アンジュはまだ帰ってきていない。部屋は暗く、寒さで思わず身体が震える。アルフレードは慣れた様子で脱いだコートを掛け、暖房機をつける。アンジュの兄の1人、ブルナー兄妹の4番目コルラードが贈った機械。ガス線に繋ぐため定期的に換気しなければならないが、スイッチ一つで暖かい空気を作り出してくれる便利な物だ。
ヤカンでお湯を沸かしていると、窓からアルフレードを不思議に見つめる妖精と目が合った。角で色が変わる細い氷が連なった衣装を着ている彼らは、冬の間にしか現れない霜の妖精だ。暖かくなれば次の冬まで精霊界に戻る彼らは、最近はよくアンジュの元に遊びに来ていた。明かりがついて彼女が帰って来たと思ったのだろう。居るはずの住人でない人物が居たからか、目を丸くして驚いている。
「今日から長くお世話になるんだ。俺のこともよろしくお願いします」
挨拶すると、顔を見合わせた彼らは話し合う。その内、また新しい精霊がやってきた。ウィリアムの相棒である、風の精霊だ。身振りで話す彼女の言葉に、合点したそぶりを見せた。彼らは小さすぎる指を向けると、舌を出す。どうやら監視の手伝いをすることにしたようだ。頼もしい限りである。
ヤカンがお湯が湧いたと、大きく音を鳴らした。
「お待たせ!買い物行って遅れちゃった。あぁ、暖かい…」
目が増える監視の下、椅子に座りくつろいでいるとアンジュが大きな紙袋を抱えて帰ってきた。
集まる多くの友人たちと言葉を交わし、お菓子を渡すアンジュ。彼らも彼女にお土産があったようだ。大きく膨らんだ布を渡すと、手を振り姿を消す。目当ての人と会えて、満足したようだ。
魔力の気配を探れば、まだ残っている幻獣種もいるようだが、アルフレードは気にせず普段通りに過ごす。むしろ今は自分の無実を証明してくれると思えば、気にならない。
アルフレードはアンジュから荷物を受け取り、温かいお茶を渡す。暖房機前で身体を温めていたアンジュは飲み物を飲むと、ほっと息をついた。白くなっていた肌も、温もりを取り戻した頬や耳に赤らんでいく。
「待ち合わせれば良かったな。ごめん。今度は俺が行くよ」
アルフレードは両手で婚約者の頬を包めば、アンジュは嬉しそうに微笑む。熱を求めて擦り寄る最愛の女性の様子に、アルフレードの表情もだらしなく緩む。
「アルが長く過ごすのは初めてじゃない?量が分かんないから勝手に行っただけだから。他にも日常品も買い足したくて…足らなかったらまた買い足そう?」
「そうだな」
アルフレードもアンジュも、平均と比べればかなりの量を食べる。1食3人前は普通に平らげる。夕食も簡単に済ませず、たくさん食べる。
普段1人で暮らせば足りる量も、2人揃えば不安になるのも当たり前だ。部屋にあった食材は持って来ていたが、気が回らなかった。
「ありがとう。代わりと言ってはなんだけど、夕飯は俺が作ってもいいか?」
ブルナー家との付き合いが始まってから、アルフレードも自ら料理をするようになった。アンジュが好きな料理は、必ず作れるようにした。実に健気な男の子である。
「え、いいの?じゃあお願いします。好きな食材使っていいよ」
「ありがとう。えっと…ミルクに肉、野菜もある。寒いからシチューでも作ろうか」
好物の単語に、アンジュは満面な笑顔で頷いた。丁度パンも買えたのだ。近くのパン屋で売っているすこし硬い穀物パン。温かなスープに浸せば丁度よく柔らかくなり、鼻を抜ける香ばしい匂いがたまらない。アルフレードの作るシチューも大きくカットされた野菜がたっぷり入っており、ホクホクと身体が温まる。素敵なコンビネーションは、美味しい夕食になるに違いない。
「アンジュ。まずは、ありがとう。急な話になのに、受け入れてくれて」
「私は平気だよ。アルフレードの生活環境が一番変わるんだし。私は、その、家に帰ってきたら会えるって思えると嬉しい。こんな状況なんだけどね。いやぁ…」
照れ臭そうに頭を搔くアンジュ。一番迷惑がかかっているのは間違いなく彼女であるのに。気遣わせている申し訳なさと、優しさにアルフレードの胸はいっぱいになる。
「思うことあったら、言って欲しい。我慢してほしくない」
「うん。私も。それじゃあアルフレード、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします。あ、アンジュ」
共同生活中は自分の癖が出てくるため、すれ違いが募り喧嘩に発展すると聞いている。将来結婚する身の上として、今からバリバリ価値観や生活リズムの擦り合わせする方が良いだろう。アンジュとアルフレードはこの機会を生かすことにした。
2人は改めて姿勢を正しお辞儀をすると、アルフレードが何かに気付いたのか声を上げた。
「おかえりなさい」
帰ってた挨拶をしていなかった。
アルフレードの言葉に、アンジュも応える。夜を照らす明るい笑顔に、アルフレードは癒やされる。
「うん、ただいま。アルもおかえりなさい」
「ただいま」
こうして、初々しい若者たちの生活は始まるのであった。
はらはらと、厚い雲から雪が舞い始めた。
まだ春の訪れは遠く、感じる寒さが肌を刺す。
しかし寂しそうに夜空を見上げる、アンジュの冬の友人たちには、あと少しで精霊界に戻る日数を静かに数えるのであった。
急いで荷物をまとめると、アンジュの元へと向かった。渡された鍵を使い借家へ入る。アンジュはまだ帰ってきていない。部屋は暗く、寒さで思わず身体が震える。アルフレードは慣れた様子で脱いだコートを掛け、暖房機をつける。アンジュの兄の1人、ブルナー兄妹の4番目コルラードが贈った機械。ガス線に繋ぐため定期的に換気しなければならないが、スイッチ一つで暖かい空気を作り出してくれる便利な物だ。
ヤカンでお湯を沸かしていると、窓からアルフレードを不思議に見つめる妖精と目が合った。角で色が変わる細い氷が連なった衣装を着ている彼らは、冬の間にしか現れない霜の妖精だ。暖かくなれば次の冬まで精霊界に戻る彼らは、最近はよくアンジュの元に遊びに来ていた。明かりがついて彼女が帰って来たと思ったのだろう。居るはずの住人でない人物が居たからか、目を丸くして驚いている。
「今日から長くお世話になるんだ。俺のこともよろしくお願いします」
挨拶すると、顔を見合わせた彼らは話し合う。その内、また新しい精霊がやってきた。ウィリアムの相棒である、風の精霊だ。身振りで話す彼女の言葉に、合点したそぶりを見せた。彼らは小さすぎる指を向けると、舌を出す。どうやら監視の手伝いをすることにしたようだ。頼もしい限りである。
ヤカンがお湯が湧いたと、大きく音を鳴らした。
「お待たせ!買い物行って遅れちゃった。あぁ、暖かい…」
目が増える監視の下、椅子に座りくつろいでいるとアンジュが大きな紙袋を抱えて帰ってきた。
集まる多くの友人たちと言葉を交わし、お菓子を渡すアンジュ。彼らも彼女にお土産があったようだ。大きく膨らんだ布を渡すと、手を振り姿を消す。目当ての人と会えて、満足したようだ。
魔力の気配を探れば、まだ残っている幻獣種もいるようだが、アルフレードは気にせず普段通りに過ごす。むしろ今は自分の無実を証明してくれると思えば、気にならない。
アルフレードはアンジュから荷物を受け取り、温かいお茶を渡す。暖房機前で身体を温めていたアンジュは飲み物を飲むと、ほっと息をついた。白くなっていた肌も、温もりを取り戻した頬や耳に赤らんでいく。
「待ち合わせれば良かったな。ごめん。今度は俺が行くよ」
アルフレードは両手で婚約者の頬を包めば、アンジュは嬉しそうに微笑む。熱を求めて擦り寄る最愛の女性の様子に、アルフレードの表情もだらしなく緩む。
「アルが長く過ごすのは初めてじゃない?量が分かんないから勝手に行っただけだから。他にも日常品も買い足したくて…足らなかったらまた買い足そう?」
「そうだな」
アルフレードもアンジュも、平均と比べればかなりの量を食べる。1食3人前は普通に平らげる。夕食も簡単に済ませず、たくさん食べる。
普段1人で暮らせば足りる量も、2人揃えば不安になるのも当たり前だ。部屋にあった食材は持って来ていたが、気が回らなかった。
「ありがとう。代わりと言ってはなんだけど、夕飯は俺が作ってもいいか?」
ブルナー家との付き合いが始まってから、アルフレードも自ら料理をするようになった。アンジュが好きな料理は、必ず作れるようにした。実に健気な男の子である。
「え、いいの?じゃあお願いします。好きな食材使っていいよ」
「ありがとう。えっと…ミルクに肉、野菜もある。寒いからシチューでも作ろうか」
好物の単語に、アンジュは満面な笑顔で頷いた。丁度パンも買えたのだ。近くのパン屋で売っているすこし硬い穀物パン。温かなスープに浸せば丁度よく柔らかくなり、鼻を抜ける香ばしい匂いがたまらない。アルフレードの作るシチューも大きくカットされた野菜がたっぷり入っており、ホクホクと身体が温まる。素敵なコンビネーションは、美味しい夕食になるに違いない。
「アンジュ。まずは、ありがとう。急な話になのに、受け入れてくれて」
「私は平気だよ。アルフレードの生活環境が一番変わるんだし。私は、その、家に帰ってきたら会えるって思えると嬉しい。こんな状況なんだけどね。いやぁ…」
照れ臭そうに頭を搔くアンジュ。一番迷惑がかかっているのは間違いなく彼女であるのに。気遣わせている申し訳なさと、優しさにアルフレードの胸はいっぱいになる。
「思うことあったら、言って欲しい。我慢してほしくない」
「うん。私も。それじゃあアルフレード、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします。あ、アンジュ」
共同生活中は自分の癖が出てくるため、すれ違いが募り喧嘩に発展すると聞いている。将来結婚する身の上として、今からバリバリ価値観や生活リズムの擦り合わせする方が良いだろう。アンジュとアルフレードはこの機会を生かすことにした。
2人は改めて姿勢を正しお辞儀をすると、アルフレードが何かに気付いたのか声を上げた。
「おかえりなさい」
帰ってた挨拶をしていなかった。
アルフレードの言葉に、アンジュも応える。夜を照らす明るい笑顔に、アルフレードは癒やされる。
「うん、ただいま。アルもおかえりなさい」
「ただいま」
こうして、初々しい若者たちの生活は始まるのであった。
はらはらと、厚い雲から雪が舞い始めた。
まだ春の訪れは遠く、感じる寒さが肌を刺す。
しかし寂しそうに夜空を見上げる、アンジュの冬の友人たちには、あと少しで精霊界に戻る日数を静かに数えるのであった。