推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_17話:ファラデウスの花祭り観光

雪解けから春の花が散るまで、各地で様々な催しが開かれた賑わいが、いつしか国の大きな行事に一括りにされた。
多種多様な花が咲き、国中が色づくことから”花祭り”と呼ばれるようになった。

この機会にファラデウス国を見て回ろうと思う。
まずは派手に、かつ賑やかに催しが行われる5区から巡っていこう。



まずは中央区から。
ここでは絢爛、豪勢に春を祝う。腹と心を十二分に満たす"食"が振舞われるのが特徴で、花祭り期間中、あちらこちらから良い匂いが漂う。
これはかつて、魔力や生き物を捕食する植物ばかりが繁栄する森が広がっており、そこに暮らす人々は常に死と隣り合わせで生きてきた。森を開拓しながら、どうにか蓄えた食糧で命を繋ぐ。冬などは地獄そのもので、ひもじさに耐え、生き抜いた先にある"春"は、彼らの希望であったのだ。
仲間と生を喜び、未来への活力をつける。3日間だけ豪華に食事を摂った慣わしが、国として力をつけると他国との交流が始まると社交界文化の影響を受けた。華やかなパーティーや夜会へと形を変え、レストランや酒場では新作メニューが打ち出されるようになった。
命に感謝し、生を堪能する。
長くファラデウスの政治拠点として躍動するこの大地では、今も力強くかつ新しきを取り入れ、開発を繰り返し豊かさを追求している。



次はファラデウスの商業の中心、西南区へ。
大陸でも有名な大河が流れるこの土地では、運送業や貿易、客船などファラデウスの玄関口にもなっている。他文化も入ってきやすいため、文化的施設も揃っている。
しかしこの河、寒い北風を受けると嘘のように厚い氷を張ってしまう。一時的に河の交通、交流ができなくなる。
陸路はもちろんあるのだが、船を愛する者が多いこの区の民には、冬は呆れるほどつまらない時期なのだ。念入りに船を整備し、春を首を長くして待つ。
氷が一切溶け切れば、ようやく河運の再開だ。次の冬が来るまで、安全に運航できるよう願った祈願が行われる。
祈り手が安全と商売繁盛を願う、祈りを捧げる。そして河の水を汲み、お守りとして次の春まで身につけるのだ。1年身につけたものは、翌年に河に返すのだ。
交通が再開すれば、賑わいは増す。他国からの商人や観光客が訪れる。大きなマーケットに、芸人によるフェスティバルや美術館や博物館では特別企画展が催されるなど。西南区frは文化的、国際的な賑わいを見せるのだ。


西南区駅から列車に乗り、中央区で乗り換えて北へ向かおう。勾配がキツくなっていく山線を走ること5時間。北区に到着だ。
ファラデウスを囲む山々の絶景が望める、澄んだ空気と緑豊かな山岳地帯。
標高の高いこの土地の天候は非常に変わりやすく、ここで住まう者たちには冬も雪も特に嫌悪するものでは無い。日々の移ろいを楽しもう。そんな精神が根付いている。
雪と大地と岩の間から、柔らかな芽が息吹くと、まずは春の訪れを祝う。
旧城の鐘が鳴れば、催しの合図。大きなイベントは種まきだ。伝統衣装に身を包んだ子供たちと公主が、耕した畑に種を撒く。撒き終わった畑を囲い、繁栄の踊りを踊る。
それからは毎日、小さなイベントが行われる。
誰かが演奏会を開き、花畑やハイキングのツアー、山頂にある湖の辺りで昼寝を楽しむ会。春の麗らかを、ゆったりと楽しむことができる。癒しを求めたいなら一押しの場所だ。
一方、坂道を一番早く転がれるかを競ったり、牛乳缶運び対決などの熱いイベントもある。この熱きイベントには、北区の公も参加する。彼女の力に圧倒されたい方にも、是非オススメしたい。


さて。北区から更に真北に進むと”天国へ至る山”の中腹に至る。穏やかな森の様子は変わり、怪しげに光るキノコやささめき合う木々などわ不可思議な世界へと変わる。ここは幻獣種が9割を占める真北山間区。土地に根付く魔力は、国で最も強い。彼らは地上の営みを真似るのが好きで、他の祭りに倣い駅から山頂までの道に出店が開かれる。
妖精御用達のアイテムはミニチュアのようで可愛らしく、キャットシーとムマの編み物屋、エルフの魔除け、レプラコーンの骨董屋など。ピクシーの踊りや、ドワーフの作った発泡酒、フルーツなど魅力的な店がたくさん出ている。
ただし、よくよく気をつけて。雰囲気に惹かれてうっかり奥へ奥へと足を運んでしまわないように。所詮は真似事。真北山間区の全容は、測ることが難しい。先へ、先へと進んでしまい、本当に天へと至ってしまっては本末転倒である。
もし何があっても…自己責任で。


怪しげな雰囲気に飲み込まれない内に祈りの土地、東南区へ向かう。
有名な大聖堂があるだけでなく、多様な宗教施設も集まるこの大地には国の敬虔な使途が通うだけでなく、多くの巡礼者も訪れる。
しかし冬は厚い雪で道が塞がれてしまう。静かで寒さ厳しい冬を、人々は祈りを捧げながら、何か困ることがあれば宗教の垣根を越えて共に乗り越えていく。
暖かな風が吹けば、雪も溶け去り道が戻る。街の賑わいも戻り、巡礼者も戻ってくる。道を舗装し、安全に人々が巡れるように、また各地を巡り溜まった疲れたをしっかり癒せるよう休みの場としても誠意努めている。また祝い事も頻繁に執り行われるため、あちらこちらから喜びと未来への幸せの声が聞こえてくる。
春だけでなく、全ての喜びに。橄欖や玄関扉などに花飾りを、細かな模様が刺された普段着を来て街を華やかにし、全ての幸せを願い、祝うのだ。大きな催しなどは無いため先に紹介した4区と比べれば大人しいものの、喧騒に身を委ねながら、改めて自分の幸せを見つめ直す来訪者も多いという。
赤褐色の屋根と白壁に統一された建築物。1階部分はアーケードで結ばれているため、雨の日でも傘をさすことなく散歩できる。地下空間も充実しており、隠れ家的飲み屋やスイーツ店、パン屋も人気である。
貴方の幸せに、是非いかがだろうか。





さて、あらゆる区が盛大に祝う中、比較的大人しく春を迎えているのが西区、南山間区。

それでは西区、ブルナー領から。もう何度も登場する場所だが、ゆっくり巡るのは初めてだろうか。迷子にならないように、しっかりとついて来るように。
ここは豊かで深い深い緑が広がり、多種多様な生き物が活動している。遠くに広がる山の稜線は自然に囲まれた壮大さに没入できる。名前の由来になった湖は、春の晴れ渡った空から注ぐ光を浴び、一層美しく輝かせる。動物と触れ合ったり湖上景色を見るために、国内外から観光客が訪れる。非日常を堪能したい人にお勧めしたい。
建国前、孤児たちはポエテランジュと協力し合い、様々な脅威から守り合ってきた。周囲からあらゆる文化や習慣が入って来て、真似を始めた催し。真似でも"当たり前の暮らし"は、子供達にとってなによりのご褒美であった。
真似はいつしか日常に親しみ、他の区同様春の訪れを祝う。
が。真北山間部の様子を見てわかるように、幻獣種は祭りが好きだ。つまり、ブルナー領でも同じ現象が起こる。街をよく見れば、酒に酔ったニンフが力をふるい、ウンディーネが人を誘惑し、魔獣の喧嘩が起こっている。大事件に繋がらないよう見回るのが、西に配属された軍人と、召喚公の仕事である。そのため祝っている暇がない。真北山間区同様、自己責任理念を掲げるか頭を抱えるほどの忙しさ。「精霊遣いを名乗るに職務放棄?」と身内の言葉を支えに毎年奮闘している。
あぁそうだ、忘れていた。貴方にブルナーの家紋が刻まれた木札を渡しておこう。肌身離さず持っていて欲しい。持っていれば、精霊界に間違って迷い込んでも迎えが来る。下手すれば時間は経っているかもしれないが、数日の誤差は可愛いもの。身につけず迷った場合、別の存在へと作り直されるよりかはマシに違いないのだから。


南山間区は、立入エリアの制限がより厳しくなっている。
山々に囲まれ、小さな街が点在するこの大地には獣や、力に誇りがある民族が暮らしている。
冬の間は雪崩の恐れや寒さに身体が縮こまり、十分に振るえなかった力への鬱憤が春の陽気に当てられ、じくじくと闘争の気分が盛り上がっている。
春からは眠っていた動物たちは起き出し、腹を満たすために動き出す。さらに恋の時期でもある。消化し切れない感情を抱いた彼らに迂闊に近づけば、襲われる恐れがある。
充満する感情の発散の解消。初代公主が打ち出したのは、異種闘技。今も伝統となって続いている。週に一度、山頂上付近で行われる、血と汗が舞うイベントは熱意溢れるコアなファンが集まり賑わう。途中乱入可能なので、この期に名を挙げたい方は参加してみてはいかがだろうか。
刺激的な催しが苦手な方は、中腹以下でゆっくり過ごすのをお勧めしたい。三角屋根の木造で造られたカラフルな街並みは見ているだけで楽しく、山中には雄大な別荘や宿泊施設がありリラックスできる。雄大な自然を望めるハイキングコースも完備。警備に公主自ら当たっているし、頼れる軍人もいる。目印に沿っていけば危険は少ない。なにより尋ねるべき場所は東南区図書館。荘厳な建築に、あらゆるカテゴリの本が楽しめる。知恵者と呼ばれる歴代の公らによって収蔵量が増えている、国1番の図書館は観光しないなんて勿体無い。



最後は、東区。
この土地に関しては、そもそも春を祝わない。
国唯一砂漠地域で、亡霊やミイラ、ゾンビなどの死者が彷徨い歩く。命溢れる春は敬遠する季節なのだ。
さらに、身体を這い回る鬱陶しい虫も活発になる。
死んでも身体にまとわりつく存在は鬱陶しい。それを除けるため、香を焚く。秋の終わりまで東区は霧がかかったようになる。その様は実に幻術的で、奇しくも東区の春の名物となっている。しかしこの香焚き、酷い時は土地全体が煙に覆われるため住民ですら迷子になる。迷った際は落ち着いて地図と、建物に刻まれた模様を確認して欲しい。模様は区画番号や路地名などをシンボル化したもの。地図にも模様が表記されているため、2つを確認できれば道を正しく戻ることが可能だ。
それでも観光したい方は、たった数日で消える水景色も春だけの光景はいかがだろうか。砂漠地帯でも微かに雪が降る特殊気候であるため、砂と雪のコントラストに不可思議な魅力があり、溶けた雪が砂漠に染み込み、どこかで湧くのだ。大変人気が強い。
また昼間よりも夜の方が賑わいがあり、ナイトマーケットが有名だ。オアシスでの天体観測も、頭の処理が追いつけないまばゆい星々や天体の光が貴方を出迎えてくれる。
一風変わった場所を観光したい方にはお勧めしたい。



北山の春の花が枯れ始めると、春祭りの終わりの合図。
祭り最終日の夜には、各区が同時に花火を上げてフィナーレを迎える。
そうすれば、ファラデウスは夏への準備に取り掛かるのだ。
今では当分先の話になるが、それもまた大きなイベントであるため休みが取れる人は見にきて欲しい。





そんな訳で。
ここまでがファラデウスの話祭り観光である。
早足にはなったが、それぞれ楽しんでいただけたなら幸いだ。
ここからは自由時間。気になった場所に赴いて、祭りを楽しむ人々に混じり春を堪能しようではないか。

それでは皆様。また今度。
私はアンジュたちの様子を確かめに行こうと思う。
何か進捗があっただろうか。
< 50 / 74 >

この作品をシェア

pagetop