推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。
3章「vs麗しきご令嬢」_21話:楽しき夕食会
アルフレードとの勝負後。
上司とも別れたララは、遅れて借家に到着した。迎えたアンジュの肩越しに、生粋のご令嬢であるビアンカがとても興味深く、借家探索をしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
部屋からいい香りが充満し、ビアンカとサーラのやり取りが聞こえてくる。
「お。おかえり!」
「おかえりなさーい!この借家面白いわよ、ララ」
「転ばないようにね、ビアンカ」
「はぁい!」
ひょこりと顔を覗かせたビアンカは、また直ぐに部屋探索へと移る。階段を登り2階へ向かう。サーラは苦笑しながら、好奇心旺盛な親友の後をついていく。
穏やかな空気に、ララはほっと息をついた。
「寒かったでしょ?」
甲斐甲斐しく世話を焼かれ、芯まで冷えた身体は暖かくなる。スパイスが効いたハーブティーを啜りながら、夕食の仕上げに取り掛かるアンジュに、アルフレードとの対決の結果を伝える。
「やっぱり、そうだったよ。あと、どっちも怪我してないから」
「ありがとうララ。休みだったのに、わざわざ確認もしてくれて…」
合法的に、広い敷地で、小憎たらしい相手と対戦と出来たのだ。正直、もっと時間が欲しかった。5分と言わず、30分欲しかったところだ。上司に事前忠告を受けていなければ、この時間までかかっていた可能性もある。
「いーのよ。久しぶりに暴れて楽しかったわ」
何より、訓練や対戦で身体を動かすのと、運動は違う。十二分に身体を動かせた。ララの言葉に、ニヤリと笑うアンジュ。
「それは、アルフレードも同じかな」
「あ、もう!欲張って色々狙ったな」
「へへへー!」
アンジュに一口分の肉とスープの入った小器を渡され、ララは味見する。コク深い鶏肉と玉ねぎの味に、爽やかなトマトの相性が良いこと良いこと。染みる旨みにたまらず顔を緩ませてたっぷり頷けば、彼女は満足げに笑う。
「ビアンカ!サーラ!夕食にしましょう。お手伝いお願いします!」
「はーい、すごくいい香りね」
「よし。パンを切り分ければいいかな」
「じゃ、私はお皿出しまぁす」
全員が揃い、少し遅い夕食時間。
メインはトマトシチュー。サーラが祭りを巡る最中で手に入れた新作パンに、ララの手土産のジュースとワイン。副菜が数種類がテーブルに並んでいる。
メインはアンジュ手製。ビアンカが土産に持ってきてくれた最上等な鶏肉を豪快に使った外はパリッと、中はジューシーに仕上げた肉は、旨みが凝縮されたスープと絡み舌だけでなく全身を喜ばせる。ほっと染み渡る。ほくほくと芯まで火が通った野菜との相性も抜群だ。
「はぁ、この味素晴らしいわ」
「染み渡るわ」
「おかわりお願いします!」
「はい。待ってね」
手料理が喜ばれるのは大変嬉しい。アンジュ自身もおかわりしながら、食事を楽しむ。
「それで。アルフレードとの対決は無事にケリがついたんだな」
成人を迎えたがまだお酒は飲めない年齢であるサーラは、アップルジュースを楽しんでいる。北区で育てられた果実は、じっくりコクのある甘みが美味しい一品だ。アンジュたちは同じ果実で作られた、シードルを嗜んでいる。
「2人もありがとうね。予定変えちゃって」
本当ならば街観光の後、夕食の追加の買い出しをするはずだった。頭を下げるララに、アンジュもビアンカとサーラに感謝を伝える。
「いいのよ、いいのよ。胸がスッキリする方が1番だわ。ところで今更なんだけど、今回の件って特に秘匿にしてないのね」
「班長戦略。上からの許可は得てるよ」
「ほお。ウィリアム・スミス、中央でも評価をされているんだな。てっきり嫌煙されてると思っていたが…」
さっとウィリアムの仏頂面が浮かぶ。かつて、アンジュの能力解放のためにわざわざ許可を取りに赴いた軍人。噂で変人が西にいると聞いていたが、実際にやってきた男は噂以上の実力者であった。そして想像以上の根が曲がっていたが。
ウィリアムの饒舌さは手に負えない、後ろめたい心当たりがある者たちには大層存在が疎まれていると、あちらこちらから聞こえてくる。アンジュを始め、癖の強いメンバーが集まるウィリアム班は避けられている。強い守り手の1人である彼に、そして彼が率いる部下たちに目を置くものも必ずいる。今回の提案も、意味と理屈が通ると許可が出た。
「普段は、うん。西にいた時と比べると平和だよ。申し訳ないほど…」
アンジュは苦笑する。西に配属されていた頃と比べると、本当に仕事の余裕がある。交流など殆ど無く、何のために移動命令が下されたのかほとほと不明である。
「活躍の場は人それぞれ。なにより軍人さんが暇な方が良いわ。平和に、かんぱい!」
ビアンカはグラスを高々と掲げた。彼女の言うことはもっともである。
「確かに。平和に乾杯!」
「乾杯」
「乾杯っ」
鍋も皿も、全てが空になった。心もお腹を満たした証拠である。
分担して片付けを終わらせると、順番に入浴も済ませて1日の汗も流し、体もすっかり綺麗になった4人。アンジュに連れられ、アンジュの隣の部屋へと移動する。
「これが花祭りの夜会服です!アルフレードのすごくカッコよくできたんだよ」
そこには、完成したドレスがとタキシードがトルソーに着せられた状態で置かれていた。
両手を広げ、アンジュは堂々自慢する。キラーン!と高音激しい効果音が聞こえてきそうな勢いだ。
「…このドレス着るの?」
「うん?そうだよ」
「あら、これは効果絶大…」
神妙な顔つきでドレスを囲む親友たち。
ドレスを完成させたデザイナー達はもちろん、一緒に考えたトゥーダやロベアタも太鼓判を押してくれた逸品だ。アンジュも、素晴らしすぎるドレスを着れる喜びで胸が一杯だ。
だから親友達も、驚嘆か絶賛してくれる、と思っていた。彼女達が顔を顰めて悩ませるなど思ってもいなかったのだ。
「…やっぱり、似合わなそうかな?」
アンジュは恐る恐る問えば、ビアンカがすぐさま否定する。
「違う。むしろ逆よ。ドレスを彼に見せた?」
アンジュは小さく首を左右に振る。夜会服は昨日の夕方に届いた時も、アンジュが受け取り部屋に広げた。衣装の試着でも見せていない。当日までの楽しみにしようとまだ男性陣には秘匿にしているのだ。
すると、3人はアンジュに詰め寄った。
「アンジュ。アルフレードには着て見せたほうが良いよ」
「じゃないと会場が流血沙汰になるやもしれん」
「ねぇ、どういうこと?なんで?何が起こるの?」
あたふたと親友たちに確認を取るアンジュは、逃げ惑う小動物のよう。哀れなほど狼狽えている。親友らは抱きしめて落ち着かせてあげるしか方法がない。
だって。アンジュに惚れ込んでいる男の気持ちなど、本人が伝えなければ意味がない。
「良い機会だ。男の嫉妬、よくよく体験することだな」
長い付き合いがあるのはアンジュであるはずなのに。アルフレードの反応の想像がつかないとは。親友達は目線で会話する。これを機に、アンジュは骨の髄まで熟知するに違いない。
「アンジュ。大丈夫。すっっごく似合う、それは断言する」
このドレスはまさに彼女のために作られた1着と、ララが強く、念を押す。ビアンカもサーラも拳を握る様子に、アンジュは落ち着きを取り戻した。
「分かった。メイクもして、彼に見てもらう」
メイク!
親友たちは沸き立つ。アンジュは自分の事は構わず、いや、気持ちに蓋をして来た。本当は流行りの服やメイク、行事にも年相応に興味があるにも関わらず。アンジュは何もない振りをする。何かをすれば、それを引き合いに後ろ指を刺されるからだ。何をやっても、見張られて、責められる。都度追い立てられれば、アンジュが興味ない振りをする理由にも仕方がない。
そんな彼女が、ようやく。今はまだ義務でしかなくとも、一歩ずつ、自分に寄り添って行けば良い。
(悔しいけどアイツのおかげ、だよなぁ)
国一の人気者で、アンジュを溺愛するアルフレード・ランゲ。
この2人が結ばれるなど、誰が予想ついただろう。ララは運命とはかくも不可思議だと、白髪を撫でながら思いを馳せるのであった。
上司とも別れたララは、遅れて借家に到着した。迎えたアンジュの肩越しに、生粋のご令嬢であるビアンカがとても興味深く、借家探索をしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
部屋からいい香りが充満し、ビアンカとサーラのやり取りが聞こえてくる。
「お。おかえり!」
「おかえりなさーい!この借家面白いわよ、ララ」
「転ばないようにね、ビアンカ」
「はぁい!」
ひょこりと顔を覗かせたビアンカは、また直ぐに部屋探索へと移る。階段を登り2階へ向かう。サーラは苦笑しながら、好奇心旺盛な親友の後をついていく。
穏やかな空気に、ララはほっと息をついた。
「寒かったでしょ?」
甲斐甲斐しく世話を焼かれ、芯まで冷えた身体は暖かくなる。スパイスが効いたハーブティーを啜りながら、夕食の仕上げに取り掛かるアンジュに、アルフレードとの対決の結果を伝える。
「やっぱり、そうだったよ。あと、どっちも怪我してないから」
「ありがとうララ。休みだったのに、わざわざ確認もしてくれて…」
合法的に、広い敷地で、小憎たらしい相手と対戦と出来たのだ。正直、もっと時間が欲しかった。5分と言わず、30分欲しかったところだ。上司に事前忠告を受けていなければ、この時間までかかっていた可能性もある。
「いーのよ。久しぶりに暴れて楽しかったわ」
何より、訓練や対戦で身体を動かすのと、運動は違う。十二分に身体を動かせた。ララの言葉に、ニヤリと笑うアンジュ。
「それは、アルフレードも同じかな」
「あ、もう!欲張って色々狙ったな」
「へへへー!」
アンジュに一口分の肉とスープの入った小器を渡され、ララは味見する。コク深い鶏肉と玉ねぎの味に、爽やかなトマトの相性が良いこと良いこと。染みる旨みにたまらず顔を緩ませてたっぷり頷けば、彼女は満足げに笑う。
「ビアンカ!サーラ!夕食にしましょう。お手伝いお願いします!」
「はーい、すごくいい香りね」
「よし。パンを切り分ければいいかな」
「じゃ、私はお皿出しまぁす」
全員が揃い、少し遅い夕食時間。
メインはトマトシチュー。サーラが祭りを巡る最中で手に入れた新作パンに、ララの手土産のジュースとワイン。副菜が数種類がテーブルに並んでいる。
メインはアンジュ手製。ビアンカが土産に持ってきてくれた最上等な鶏肉を豪快に使った外はパリッと、中はジューシーに仕上げた肉は、旨みが凝縮されたスープと絡み舌だけでなく全身を喜ばせる。ほっと染み渡る。ほくほくと芯まで火が通った野菜との相性も抜群だ。
「はぁ、この味素晴らしいわ」
「染み渡るわ」
「おかわりお願いします!」
「はい。待ってね」
手料理が喜ばれるのは大変嬉しい。アンジュ自身もおかわりしながら、食事を楽しむ。
「それで。アルフレードとの対決は無事にケリがついたんだな」
成人を迎えたがまだお酒は飲めない年齢であるサーラは、アップルジュースを楽しんでいる。北区で育てられた果実は、じっくりコクのある甘みが美味しい一品だ。アンジュたちは同じ果実で作られた、シードルを嗜んでいる。
「2人もありがとうね。予定変えちゃって」
本当ならば街観光の後、夕食の追加の買い出しをするはずだった。頭を下げるララに、アンジュもビアンカとサーラに感謝を伝える。
「いいのよ、いいのよ。胸がスッキリする方が1番だわ。ところで今更なんだけど、今回の件って特に秘匿にしてないのね」
「班長戦略。上からの許可は得てるよ」
「ほお。ウィリアム・スミス、中央でも評価をされているんだな。てっきり嫌煙されてると思っていたが…」
さっとウィリアムの仏頂面が浮かぶ。かつて、アンジュの能力解放のためにわざわざ許可を取りに赴いた軍人。噂で変人が西にいると聞いていたが、実際にやってきた男は噂以上の実力者であった。そして想像以上の根が曲がっていたが。
ウィリアムの饒舌さは手に負えない、後ろめたい心当たりがある者たちには大層存在が疎まれていると、あちらこちらから聞こえてくる。アンジュを始め、癖の強いメンバーが集まるウィリアム班は避けられている。強い守り手の1人である彼に、そして彼が率いる部下たちに目を置くものも必ずいる。今回の提案も、意味と理屈が通ると許可が出た。
「普段は、うん。西にいた時と比べると平和だよ。申し訳ないほど…」
アンジュは苦笑する。西に配属されていた頃と比べると、本当に仕事の余裕がある。交流など殆ど無く、何のために移動命令が下されたのかほとほと不明である。
「活躍の場は人それぞれ。なにより軍人さんが暇な方が良いわ。平和に、かんぱい!」
ビアンカはグラスを高々と掲げた。彼女の言うことはもっともである。
「確かに。平和に乾杯!」
「乾杯」
「乾杯っ」
鍋も皿も、全てが空になった。心もお腹を満たした証拠である。
分担して片付けを終わらせると、順番に入浴も済ませて1日の汗も流し、体もすっかり綺麗になった4人。アンジュに連れられ、アンジュの隣の部屋へと移動する。
「これが花祭りの夜会服です!アルフレードのすごくカッコよくできたんだよ」
そこには、完成したドレスがとタキシードがトルソーに着せられた状態で置かれていた。
両手を広げ、アンジュは堂々自慢する。キラーン!と高音激しい効果音が聞こえてきそうな勢いだ。
「…このドレス着るの?」
「うん?そうだよ」
「あら、これは効果絶大…」
神妙な顔つきでドレスを囲む親友たち。
ドレスを完成させたデザイナー達はもちろん、一緒に考えたトゥーダやロベアタも太鼓判を押してくれた逸品だ。アンジュも、素晴らしすぎるドレスを着れる喜びで胸が一杯だ。
だから親友達も、驚嘆か絶賛してくれる、と思っていた。彼女達が顔を顰めて悩ませるなど思ってもいなかったのだ。
「…やっぱり、似合わなそうかな?」
アンジュは恐る恐る問えば、ビアンカがすぐさま否定する。
「違う。むしろ逆よ。ドレスを彼に見せた?」
アンジュは小さく首を左右に振る。夜会服は昨日の夕方に届いた時も、アンジュが受け取り部屋に広げた。衣装の試着でも見せていない。当日までの楽しみにしようとまだ男性陣には秘匿にしているのだ。
すると、3人はアンジュに詰め寄った。
「アンジュ。アルフレードには着て見せたほうが良いよ」
「じゃないと会場が流血沙汰になるやもしれん」
「ねぇ、どういうこと?なんで?何が起こるの?」
あたふたと親友たちに確認を取るアンジュは、逃げ惑う小動物のよう。哀れなほど狼狽えている。親友らは抱きしめて落ち着かせてあげるしか方法がない。
だって。アンジュに惚れ込んでいる男の気持ちなど、本人が伝えなければ意味がない。
「良い機会だ。男の嫉妬、よくよく体験することだな」
長い付き合いがあるのはアンジュであるはずなのに。アルフレードの反応の想像がつかないとは。親友達は目線で会話する。これを機に、アンジュは骨の髄まで熟知するに違いない。
「アンジュ。大丈夫。すっっごく似合う、それは断言する」
このドレスはまさに彼女のために作られた1着と、ララが強く、念を押す。ビアンカもサーラも拳を握る様子に、アンジュは落ち着きを取り戻した。
「分かった。メイクもして、彼に見てもらう」
メイク!
親友たちは沸き立つ。アンジュは自分の事は構わず、いや、気持ちに蓋をして来た。本当は流行りの服やメイク、行事にも年相応に興味があるにも関わらず。アンジュは何もない振りをする。何かをすれば、それを引き合いに後ろ指を刺されるからだ。何をやっても、見張られて、責められる。都度追い立てられれば、アンジュが興味ない振りをする理由にも仕方がない。
そんな彼女が、ようやく。今はまだ義務でしかなくとも、一歩ずつ、自分に寄り添って行けば良い。
(悔しいけどアイツのおかげ、だよなぁ)
国一の人気者で、アンジュを溺愛するアルフレード・ランゲ。
この2人が結ばれるなど、誰が予想ついただろう。ララは運命とはかくも不可思議だと、白髪を撫でながら思いを馳せるのであった。